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「チ。」の超ドSな展開に、(*´Д`)ハァハァしよう!
今回は、人気アニメ「チ。」について書いてみたい。
これはNHKアニメなんだが、NHKのやつはどうも知的水準が高いのが多く、割と見る人を選ぶと思う。
今までも「不滅のあなたへ」や「ヴィンランドサガ」などはかなり高尚で、絶賛する人は「こんな凄いアニメはない!」と最大級の賛辞を述べる一方、また別のところでは「なんか暗くて好きじゃない」「よく分からん」という意見も一定数ある感じね。
この「チ。」もまた、そういう感じである。
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で、私自身はどうなのかというと、絶賛派のひとりだと捉えてください。
ただし、否定派の気持ちも分からんではないんだわ。
だって、見てて辛すぎるもん・・。
「そもそも娯楽としてアニメ見てるのに、何でこんな辛い思いをせなあかんねん?」
という考え方の人は多いんだよ。
えぇ、そういう人は「悪役令嬢転生おじさん」あたりを見ればいいと思うし、無理に「チ。」を薦めるつもりはない。
ただ、これは単純に個人的な主義の話になってしまうが、私は「好き嫌いをせず、何でもモリモリ食べなさい」派なのね(笑)。
私にとってアニメは<娯楽>というより<食事>だから、ある程度バランスを意識して摂ってるのよ。
炭水化物、タンパク質、ビタミン、繊維質etc。
たとえば「悪役令嬢転生おじさん」なんかは炭水化物(糖質=エネルギー)だね。
一方、「チ。」は血肉になる系のタンパク質なのさ。
だから口当たりのいい糖質に比べると、ちょっとばかり人を選んじゃうかもなぁ・・。
でも、非常に大事な栄養素である。
・・あ、私の場合は何の栄養にもならない、ウンコになるだけの<繊維質系アニメ>ですら新陳代謝的に大事だと思ってるよ?
※繊維質系アニメ・・代表例「ポプテピピック」、冠木佐和子作品etc
さて、話を「チ。」に戻すが、これが見てて辛いのは、ただ向学心/知的好奇心で天体研究をしてるだけの主人公らが、何でこれほど理不尽な目に遭うのか、というところだよね。
彼らを迫害するカトリック教会って、狂ってるのか?と。
「はい、狂ってるんです」「昔の人たちは馬鹿だったんです」という単純な捉え方をしちゃう人は、「チ。」の本質を全く理解できてないわけよ。
一方、「チ。」支持派のほとんどは、これを<理解できてる>派の人たち。
この差は、頭の良し悪しは関係なく、ただ単純に予備知識の問題。
ちなみにNHKという局は、「あなたたち、この程度の予備知識ぐらいはあるでしょ?」というスタンスの、どこか傲慢なところがあるんだよね。
昔から大河ドラマでもそうだし・・。
で、今回の「チ。」において、NHKが視聴者に要求してるであろう予備知識というのは<原罪>というものである。
この<原罪>を理解しない限りにおいては
・向学心ある者を抹殺する教会
・異端審問という虐待/殺人を正当化する教会
・女性を蔑視する教会
全ておいて教会=馬鹿の集まり、という解釈しかできないでしょ?
それでは、「チ。」をただ理不尽なお話としか捉えられないし、視聴継続も困難になるのは当然だろう。
・・うん、だから私は「チ。」が嫌いという人を否定はしないさ。
ただ、これが非常によくできた作品なのは間違いないので、できれば理解をしてほしいし、その一助になるかは分からんが、今回は本作における最大のキーワード、<原罪>について少し書いてみたいと思う。
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<原罪>
原罪、これについては皆さんも一応、学校などで習ったことあると思う。
そう、例のアダムとイブ、つまり旧約聖書創世記のお話だよね。
昔、最初の人類アダムとイブは、エデンの園という楽園に住んでいた。
そこで、神に「絶対食べてはいけない」と言われていた「知恵の実」を2人は食べちゃったわけです。
う~ん、「食べちゃいけない」というのは一種のフリだったのかな?
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アダムとイブ=肥後と寺門、という解釈でも別に構わないと思う。
ただ、毎回押しても許してくれた寛容な上島と違い、神は狭量なのよ。
アダムとイブを許すことなく楽園から追放し、さらにいうと2人に対して各々に罰を与えたんです。
<アダム(男)に与えられた罰>
・苦労して働くことでしか食糧を得られない苦しみ
・命に限りがある苦しみ
<イブ(女)に与えられた罰>
・出産することの苦しみ
・夫(男)に支配されることの苦しみ
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これが<原罪>であり、今の我々を含めて「人間は生まれながらの罪人」というのが旧約聖書創世記の内容なんだ。
と同時に、「人間は神が与えた罰を甘んじて受けなければならない」と。
でも日本人はキリスト教徒じゃないから別によくね?という考え方もできるが、そうは言ってもこの旧約聖書ってやつ、
キリスト教の聖典・・新約聖書、旧約聖書
イスラム教の聖典・・コーラン、旧約聖書
ユダヤ教の聖典・・旧約聖書
唯一神教、全ての共通図書という扱いで、人類史ベストセラーランキングのダントツNO.1なんです。
「窓際のトットちゃん」より上。
ちなみに、キリスト教+イスラム教+ユダヤ教で世界総人口の半分ぐらいを占めてるらしいぞ(仏教は6~7%のシェアでしかない)。
我々も国際社会の中で生きていく以上、旧約聖書の内容ぐらいは知っておく必要があるわけさ。
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で、この<原罪>のくだりで少し考えなくちゃいけないのは
何で「知恵の実」を食べちゃダメなの?
という本質的なところである。
「知恵の実」とは、まさに「チ。」における天文学の真理のことでもあり、それを食べちゃいけないというのを納得いく説明してくださいよ、と皆さん思うだろう。
かくいう私も、実際そう思う。
でも旧約聖書では、これと似たようなエピソードがいっぱい出てくるのよ。
<バベルの塔>
人類の英知(科学の進歩)で高い塔を建設⇒怒って神は塔を破壊
<ソドムとゴモラ>
享楽的な町(原罪の罰を忘れた町)のパリピ⇒怒って神は皆殺しにした
<ソロモン王の栄華>
ちょっと調子乗ったのか、戒律を破った⇒バビロン捕囚等、受難の時代へ
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「旧約聖書」を読んだ方はよくお分かりだろうが、この物語って
人類、罪を犯す⇒神、怒る⇒人類、罪を犯す⇒神、怒る⇒人類、罪を犯す
ひたすら、そのループなんだよね。
なぜ、罪を犯すのか?
それは「知恵の実」を食べたことで、人間に「エゴ」が生まれたからさ。
エゴ、それは自分だけ人よりいい思いをしたい、楽をしたい、自分の優秀さを示して優越感に浸りたい、誰かを貶めて優越感に浸りたい、などの「人間らしい」とされる感情は、全てが「知恵の実」からきてるということ。
ただ、このエゴによって皆に競争心が芽生え、人類社会の文明は発展したともいえる。
それはいいことじゃん、と我々人類目線では思うでしょ?
でも、神様目線では
「文明が発展することがいいことか?
それは単に楽をできるだけで、原罪の罰の苦しみを軽減したいというお前らのエゴにすぎないではないか?」
という捉え方みたいだし、さらにいうと
「文明が発展したことで格差社会が生まれ、戦争が起き、環境が破壊され、こんな世界がホントにいいのか?」
というのも神様の言い分だろう。
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キリスト教の中でも敬虔な「アーミッシュ」なんかは、近代文明を否定して現代でも馬車に乗る中世みたいな生活をしてるわけね。
こういうの見て、少なくとも日本では「馬鹿じゃね?」と思う人はめっちゃ多いだろう。
そりゃそうさ。
日本人には原罪なんて意識は微塵もないから。
むしろ逆に
「競争に勝つのはいいこと、個人が富を得ることを目指すのは正常な精神、つまりエゴは忌むものでなく、むしろ尊重されるべきものである」
と我々はこれまで学んできている。
・・そう、旧約聖書の神とはまるで真逆のスタンスなんだよな。
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それは、女性の原罪の罰にもいえることである。
<オンナの原罪>
神から与えられた罰「夫(男)に支配されること」
⇓⇓⇓
「オンナは社会に出るな、常に家庭で夫(男)に従え、男の邪魔をするな、なぜならそれがオンナの原罪の罰だから」
というのが、旧約聖書からくる女性蔑視論の根拠である。
・・理不尽すぎる?
そう、聖書に書かれた<原罪>論は実に理不尽なのさ。
この「チ。」を描いた魚豊先生も、間違いなくそういう思いを込めて描いているはず。
でも、昔の欧州はこれが常識だったんだよ。
作中、異端審問官などは狂気の人に見えるけど、でも、それは教会が定めた職務だから。
じゃなぜ、教会は暴力を否定しないの?
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それもまた、旧約聖書からきてるんですよ。
皆さんも名作映画「十戒」は見てると思うが、ホントに知るべきはそれ以降の話である。
モーセの死後、そこからの聖書はめちゃくちゃ暴力的になっていくのよ。
後継者ヨシュアとか、カナンの異民族を皆殺しにするんだ(女子供でも)。
それ以降も代々殺戮に明け暮れる歴史で、ダビデ王の代でエルサレムを侵略し、ペリシテ人を殺戮の末に征服。
で、これらは「罪」どころか、聖書では「偉業」とされている。
基本、異教徒なら殺しても全然OK!
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リベラルな教育しか受けていない我々には、全くもって理解不能な世界観である。
でも実際、聖書とはそういう内容だよ。
不思議と誰もこれを「危険図書」と言わないけど、人によっては暴力肯定と解釈されてもおかしくない物語である。
考えてみりゃ、今でもテロを仕掛けてる某宗教の信者がいるわけだし、マジで聖書は取り扱い危険物だとさえ私は思ってるんだけど・・。
多分だが、魚豊先生も私と同じ考え方なんじゃないかな?
そもそも<原罪>、人は生まれながらにして罪人、そして人生は原罪を償う罰、という考え方からして私はまるで納得できない。
そもそもだけどさ、この聖書の考え方でいっちゃうと、今の日本とか完全に「ソドムとゴモラ」だぞ?
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うっわ~、これ、いずれは神の怒りに触れて、ウチらまるごと滅ぼされちゃうかも?
勘弁してください。
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