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逆境的小児体験を考える



本日の言葉。

説教してきかせても、それは人とふれあう場にはなりません。ほうきをもってだれかの家をきれいにしてあげてごらんなさい、そのほうがもっと雄弁なのですから
(マザー・テレサ)


投稿の動機


不登校児童生徒が過去最多を更新とのニュースを読んだのがきっかけです。

児童生徒の問題行動や不登校などの実態を調査した「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(文部科学省)によれば、病気や経済的理由を除き、心理・社会的な要因などで小中学校に年30日以上登校しない不登校児童生徒数は、過去最多の34万6482人となり、前年度から47,434人(15.9%)増加しました。
増加は11年連続となっており、初めて30万人を超えました(前年度は29万9048人)。

増加の背景として、児童生徒の休養の必要性を明示した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の趣旨の浸透等による保護者の学校に対する意識の変化、コロナ禍の影響による登校 意欲の低下、特別な配慮を必要とする児童生徒に対する早期からの適切な指導や必要な支援に課題があったことなどが考えられるそうです。

不登校児童生徒について把握した事実としては、 小・中学校においては、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった。」(32.2%)が最も多く、続いて「不安・抑うつの相談があった。」(23.1%)、 「生活リズムの不調に関する相談があった。」(23.0%)、「学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた。」(15.2%)、「いじめ被害 を除く友人関係をめぐる問題の情報や相談があった。」(13.3%)の順で多かったそうです。

私はこの中で、子どものメンタルヘルスについて気になり文部科学省のホームページを検索した時、「逆境的小児体験」という言葉を見ました。

逆境的小児体験とは?


逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experience : ACE 以下「ACE」)とは、小児期における被虐待や機能不全家族との生活による困難な体験のことです。

具体的には、小児期や思春期に経験した精神的または身体的なストレス要因 (親による侮辱、暴言、暴力、性的虐待、ネグレクトの他に、家族の誰からも大事にされていない、家族どうしの仲が悪い、誰も守ってくれないと感じた経験)と、子どもの家族における機能不全(別居や離婚による親との別離、母親に対する暴力や暴言の目撃、家族に薬物・アルコール依存やうつ病など精神疾患の罹患があること、家族に自傷行為や自殺企図をする人がいる、または服役中の人がいるなど)の逆境的境遇です。

ACE は成人期以降の心身の健康に影響を及ぼすという疫学研究結果がフェリッティらによって報告されています。


逆境的小児体験(ACE)と健康


フェリッティは、ACE スコア (心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、物質中 毒、精神疾患、母親の DV 被害、家庭内に犯罪者がいること)を作成しました。
同氏が勤務するク リニックを受診した 13,494 人を対象として、アメリカの疾病予防管理センター (CDC) との共同研究により ACE スコアと健康状態との関係について調査を実施したところ 9,508 人から回答を得られ、このスコアが高い人ほど健康上のリスクが高くなることが明らかとなりました。

高い ACE スコアは高度な肥満・喫煙などの生活習慣や、心筋梗塞・何らかの癌・脳卒中などの疾病罹患 リスクなどにおいてオッズ比上昇を認め、 特に薬物注射や自殺企図においては 10 倍以上と顕著でした。

<ACEスコアと生活習慣・嗜癖・疾病罹患リスクとの関連>

高度な肥満(BMI≧35 )                  1.6倍
喫煙                   2.2倍
休日に体を動かさない           1.3倍
年に2週間以上うつ気分あり          4.6倍
自殺企図                12.2倍
自分がアルコール依存だと思う     7.4倍
薬物使用               4.7倍
薬物注射             10.3倍
性感染症            2.5倍
50人以上と性交渉あり      3.2倍
心筋梗塞            2.2倍
何らかの癌           1.9倍
脳卒中             2.4倍
慢性気管支炎または肺気腫    3.9倍
糖尿病             1.6倍

小児期に逆境的体験が多いほど、人は社会的、 情動的、認知的な問題を抱える可能性が高まり、 その結果として喫煙、暴飲暴食の生活習慣の乱れや、薬物依存などの危険行動が増加し、疾病罹患や事故、犯罪による社会不適応をきたして 早世(early death)の可能性を高めてしまうことについて、フェリッティらは逆境的小児期体験が健康や寿命に及ぼすメカニズム(小児期逆境体験(トラウマ)→神経発達の混乱→社会的・情緒的・認知の障害→健康を害する行動による順応→疾病、障害、社会不適応→早世)とし て提唱しました。


逆境的小児体験を予防する対策


対策の一つとして、
「ポジティブ・ディシプリン」の推奨が挙げられます。

「ポジティブ・ディシプリン」とは、子供を暴力や暴言によって抑制するのではなく、愛情を示して安心感を与え、子供の気持ちを理解しながら、論理的に教え導いていくという、子育ての考え方です。

現在では、アメリカを中心に海外の多くの学校で実施されています。

ポジティブ・ディシプリンの中心的特徴は、以下の6つです。

① 問題行動の予防
②望ましい対人的行動やスキル の教授
③望ましい行動の承認
④児童生徒のニーズに応じてよりニーズの高い児童生徒にはより手厚い行動支援を行う多層支援のアプローチ
⑤データに基づく問題解決
⑥エビデンスベーストの実践を支えるシステムの構築

これらは、は応用行動分析学を理論的基盤としており、問題行動が起こりにくく、また望ましい行動が起こりやすい先行事象を設定し、生起した望ましい行動を承認する ことで強化するという随伴性が成立するように 環境を整えます。


参考資料:厚生労働省ホームページ
     文部科学省ホームページ

最後まで読んでいただきありがとうございます。







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