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感情の消えた夜

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感情の消えた夜 境界線 Ⅰ

感情の消えた夜 境界線 Ⅰ

灯りが眩しくなり出す夕暮れ。

少し肌寒い夏の終わり「ずっとあなたを私だけの永遠にしたかった」そんな風に彼へ伝えた夜、全ての終わりは始まる。

大学を卒業した私は特別不自由な生活を送るわけでも、特別恵まれた生活を送るわけでもく、子供と大人の境界線を行き来しながら、社会という特殊な国へ旅立つ準備をしていた。

その頃の私は友達もそれなりに居たし、どちらかと言えばいつも誰かと遊びに行っていたのだけれど

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感情の消えた夜 境界線 II

感情の消えた夜 境界線 II

一点の晴れ間もなく

最初に会話をしたのは平日の真昼間。仕事にはなれてきたし嫌だというわけではなかったけれど今日は別の何かをしたいと思い初めて仮病を使い休み喫茶店へ足を向けた夏の始まりだった。

オフィス街でもないし他の常連客も居なくて、初めてマスターとゆっくり話した時でもあったかな。
あまりよく覚えていないけれど、奥さんの話や私のよく知らない映画の話をしていた気がする。

小一時間経ちそろそろ何

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感情の消えた夜  境界線 Ⅲ

感情の消えた夜 境界線 Ⅲ

夏至が通過した金曜。

半袖でも街を歩ける様になった頃、私達はたまに店を閉めた後に三人で映画を観るようになっていた。

マスターの気分でそろそろ怪談話の様なものをみてもいいかもしれないなと、あまり有名ではなさそうなホラー映画とかを流しながらその日も全く関係のない会話を投げ合あう。

彼がふと「そういやルールとかマナーとか法律ってあるだろ。これを破るってのは確かに宜しくない事かもしれない。けどよ、そ

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感情の消えた夜  境界線 Ⅳ

感情の消えた夜 境界線 Ⅳ

海の底より濃く

私の日常は小さな会社で簡単な事務を繰り返す事だった。彼の日常は携帯電話のパーツをひたすら同じ様に組み合わせていく事だった。
決定的な違いはその先にある動機ではあったけれど、何かを繰り返す事にはそう大きく違いなかった様な気がする。

彼と私はよく話す様になっていた。と言うか彼がお喋りなのだ。
この頃は週末に喫茶店で食事をした後彼の家で二次会の様に取り留めのない話を聞いたり、彼が弾く

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感情の消えた夜  境界線 Ⅴ

感情の消えた夜 境界線 Ⅴ

彼の居ない時間

きまって日曜日は私と彼は一緒に居ない。
深い理由はないのだけれどなんとなくそうしていた。

私は社会人になってからほとんど学生時代の友人や知人と会わなくなっていたのだけれど、数少ない親しい友人と久しぶりに会うことになった。
彼女とは中学校の頃からの付き合いで、将来の事や趣味の話、恋愛の愚痴まで話し合える仲だったし一緒に居て楽だったから前はよく会っていた気がする。

ある土曜日、ウ

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感情の消えた夜  境界線 Ⅵ

感情の消えた夜 境界線 Ⅵ

真夏の静かな休日に 

彼と私は珍しくいつも行かない場所へ来ていた。

夏休みという事もあるのだろうけれど、どの店も混んでいる。

本当はマスターの店でいつも通り食事をする予定だったのだけれど「いや今日混んでるしお前らたまにはいつも行かない場所とか行きなよ。」とマスターに追い返されいつもと違う街へ電車に乗って向かい彷徨うことになった。

「賑やかだなどこも。普段どこにこの人達は潜んでるんだ。電車に

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感情の消えた夜 - 境界線 Ⅶ

感情の消えた夜 - 境界線 Ⅶ

社会人になって初めての夏

この年は湿度も高くとにかく暑くて、決して快適だったとはいえなかった。
それに学生の頃の様に大きな休みがあるわけでもなかったし、大きな楽しみや華やかなイベントがあるわけでもなかったけれど、私はなんだか初めて心の中が溢れそうなくらい満ちた日々を過ごした気がする。

私と彼がゆっくり合うのは金曜日の夜から遅くても土曜の昼くらいまでだけだったけれど、やっと仕事に慣れてきた私にと

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感情の消えた夜 - 境界線 Ⅷ

感情の消えた夜 - 境界線 Ⅷ

季節の所業

平日の深夜、一定のリズムで刻まれる ピッピッピッ といった感じのループ音と遠くの方で鳴る大型のブルドーザーのような機械音とバイクのエンジン音がうっすらなる中夢の世界から目を覚ます。まだまだ眠かったし時間も朝まであったからそのまま寝れたのだけどなんとなく体を起こして窓際に座ってみた。

大きめのワゴン車を運転して大勢の架空の友人と何処かの大きな芝生がある公園で何日もバーベキューをする夢

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