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ヤンパチーノ
2020年10月29日 17:21
第一話 ロスト・イン・コミュニケーション「あの、すいません。面接、何時からですか?」 神保町にある出版社の会議室にて、新卒採用面接の自分の番が来るのを待っていたボクは、同じく横で待っていた女子学生に話し掛けられた。他の就活生と同様に黒髪を後ろで束ねていたが、メイクが少し濃いなと思った。「えっ、あっ、十一時からです」未だに女子と話すことに緊張するボクは、テンパりながらもなるべく素っ気ない
2024年4月29日 20:42
2021年終わりから1年間に渡り、毎週noteで連載したヤンパチーノ初の小説であり、私小説的連載小説『それまでのすべて、報われて、夜中に』全四十五話の校正をしました。「校正なんてものは最初からやっとけよ」という至極真っ当なツッコミが入りそうですが、連載当日は小説を書くこと自体が初めてで、毎週ストーリーを考えるので精一杯という状況でした。いざ連載すると読んでいただいた方から応援コメントなどをいただ
2020年11月5日 19:04
第一話から読む第二話 ビフォア・ミッドナイト 昨年の秋、定年退職後に受けた健康診断で父親が膵臓癌であることがわかった。その際、担当医から膵臓癌は治療が難しい癌であると聞いた。父には癌を告知した上で手術をすることになったが、いざ手術を始めると、身体を開いた時点で治療が不可能な状態まで癌が進行していることが分かり、処置をしないままに身体は閉じられた。ボクらは父には手術が成功したと伝えることに決めた
2020年11月12日 19:29
第一話から読む 前回の話を読む第三話 キッズリターンができなくて「今から白山ラーメン食べに行かない?二人の家の中間地点で待ち合わせして、チャリンコデートしよ!」 もうすぐ二十四時を回ろうとする頃、突如、麻衣子から電話があった。 麻衣子の住む神保町とボクの住む巣鴨は白山通りで繋がっており、チャリだと三十分くらいの距離だ。渋谷で会って以来、麻衣子への想いを募らせていたボクは突然の誘いに喜
2020年11月19日 20:02
第一話から読む 前回の話を読む第四話 恋するリボウスキ「髪染めたんだ?赤?」「そうなの。就職するまで好きな色にしておきたいなと思って、赤くしてみた」「カッコいいね。スゲー似合ってる。『フィフス・エレメント』のミラ・ジョボビッチみたい」「あれは赤っていうよりオレンジでしょ?」「じゃあ『ラン・ローラ・ラン』の走ってる子」「アハハ、あそこまで明るい赤ではないけどね。でも、そういえばあの子
2020年11月26日 19:39
第一話から読む 前回の話を読む第五話 ミッドナイト・イン・神保町 大学では友人が一人もいないボクではあったが、一年先に現役で大学に進んだラップユニットの相方、サトルとは良く遊んでいた。この時、サトルは既に国内大手の製造小売企業で新入社員として働き始めていた。店舗運営をしているサトルが休みを取れることが多い水曜日にサトルを通じて仲良くなった仲間ら四、五人で良く遊んでいた。ボクらはその集まりを『
2020年12月3日 20:02
第一話から読む 前回の話を読む第六話 ナイトメア・ビフォア・クリスマス 初デートから半年が経った十二月、麻衣子といつものように深夜の長電話。既に三時間以上経過している。たった今は「好きな食べ物ベストスリー」を、一つずつに二十分以上掛けながら、何故好きか、どれほど好きかを発表し合っていたところだ。ボクの一位が「メンチカツ」であることに「小学生?」と麻衣子は笑いながらツッコミを入れた。それが終わ
2020年12月10日 20:01
第一話から読む前回の話を読む第七話 ガール・ネクスト・ドア 年明け早々、膵臓癌で再入院していた父が亡くなった。 ボクら家族は、手術が失敗に終わったことを父に告げぬまま、亡くなるまでの一年間を過ごした。病室で父の好きなプロ野球中継を一緒に観ていると、突如、癌保険のCMが流れた時はヒヤヒヤした。亡くなる二ヶ月くらい前には父の身体は痩せ細り、見るからに衰弱していたが、最後まで父とボクらは癌につい
2020年12月17日 20:02
第一話から読む 前回の話を読む第八話:トゥ・ザ・ジャッジメント・ナイト 神保町で偶然に遭遇して以降、麻衣子からの連絡はなかった。痺れを切らせてこちらからメールをしても「今は忙しくて会えないから、落ち着いたら連絡する」という断る理由のテンプレのような返信が来るだけだった。これまで週一回は深夜に長電話をして、週一回は会うという何となくのルーティンはいつの間にか消えてしまった。頭の中に暗雲が立ち込め
2020年12月24日 20:02
第一話から読む 前回の話を読む第九話:あの頃ぼくらは ロイヤルホストの窓側の席でドリンクバーで注いだコーラを飲みながら麻衣子を待った。これから告白をする緊張感で味がしなかった。 十分経っても麻衣子が来ない。ここは麻衣子の家の目と鼻の先だ。緊張感が続くことに耐えられず、電話を掛けた。 直ぐに麻衣子が電話に出た。「遅れててごめん!ちょっとバタバタしてて、あと五分で行くよ!」 掃除機で
2020年12月31日 16:36
第一話から読む 前回の話を読む第十話:犬、走る ドッグ・レース 麻衣子に告白してから二ヶ月経ち、冬も終わろうとしていた。 告白直後は気持ちの整理ができなかったものの、時間が経つにつれて告白して振られたという事実に違いはなく、徐々にそのことを受け入れていった。麻衣子への連絡もしなくなり、向こうから連絡もなかった。 ただ、麻衣子のように進路を決めたいという想いが強くなり、就活に対して前向
2021年1月7日 20:28
第一話から読む 前回の話を読む第十一話:ライク・サムワン・イン・ラブ 新宿駅に着き、麻衣子が指定した新宿三丁目のカフェレストランにて向かう。出会ってからこれまでどこへ行くにも、何をするにも麻衣子がリードした。今日だっていつもの通りだ。 男一人では入りにくような可愛らしい装飾のこぢんまりとしたカフェに入る。麻衣子もちょうど着いたばかりのようで、ロングコートを脱いでいるところだった。軽い挨拶の
2021年1月14日 20:09
第一話から読む 前回の話を読む第十二話:バック・トゥ・ザ・フューチャー 三月も終わりに近づき、来年度の留年と履修科目の申請手続きのため、久々に大学へ行った。手続きを済ました後、大学の近くの定食屋に入り、メンチカツ定食を食べた。学生街だけあってご飯はいつも大盛りだ。大学には学食もあるが、大学に友人のいないボクが学食で食べることは無かった。この定食屋は駅に近く、勤め人の客も多いため、独りでいること
2021年1月21日 20:08
第一話から読む 前回の話を読む第十三話:ユー・ガット・メール 四月。初めての内々定をもらうと同時にボクは就活を終了した。 慣れたと言えども留年の負い目を感じながらの就活に心は疲労していたし、内々定した大手メーカーは仕事に特別興味はなかったものの、労働条件なども悪くないと思われた。何より土日をしっかり休めて、音楽活動に使いたかった。他に先行が進んでいた企業はあったが、どこであっても特別に差が