[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第九話:あの頃ぼくらは」
第九話:あの頃ぼくらは
ロイヤルホストの窓側の席でドリンクバーで注いだコーラを飲みながら麻衣子を待った。これから告白をする緊張感で味がしなかった。
十分経っても麻衣子が来ない。ここは麻衣子の家の目と鼻の先だ。緊張感が続くことに耐えられず、電話を掛けた。
直ぐに麻衣子が電話に出た。
「遅れててごめん!ちょっとバタバタしてて、あと五分で行くよ!」
掃除機でも掛けているのだろうか、電話の向こうが騒がしい。
こちらの呼び出し方で、ボクが何かしらの思いを伝えようとしていることはわかったと思う。ボクにとっては一大事でああるが、平常運転の麻衣子は会う直前に別の用事をこなしている。勿論、突然の呼び出しをしたのはこちらだし、告白する側に比べて告白される側には余裕があるものかもしれない。今ボクに告白されることは麻衣子にとって望んでいないことだと言われているかのようで暗澹とした気持ちになった。
電話から十分後、麻衣子が店に入って来た。
「ごめん、ごめん!今日はなんかバタバタしてて!」
「こちらこそ急に呼び出してごめん。あんまり時間ないよね?」
「そうだね。でも、一時間くらいは大丈夫」
何故、バタバタしているのか説明はなかったが、それ以上聞くことはできなかったし、この後に本題を切り出すことを考えるとそんな余裕もなかった。
ドリンクバーからコーヒーを取って麻衣子が戻ってくる。
「お待たせ!話、、、だよね?」
「そう、話があって、、、」
ライブを観た後の気持ちの高まりから勢いで呼び出したまでは良かったが、待っている間に当初の勢いは失速していた。いざ麻衣子を目の前にすると、なかなか最初の言葉が出てこない。
「あっ、あの、、、」
話し出しながら、言葉を探し続ける。もたついていると麻衣子が口を開いた。
「もしかして、アタシのことを好きでいてくれてるって話かな?」
「えっ、あっ、そ、そうなんだ、、、」
呼び出しておいて、伝えるべきことを向こうから言われてしまった。麻衣子のアシストを受け、やっと話し始めることができた。
「最近、なかなか会えなくなったし、彼氏がいるのかなと気になっちゃって。気持ちを伝えても可能性は低いかなとはわかってんだけど、はっきりさせたくて」
「そうだよねえ、、、」
呼吸を整えるように麻衣子はコーヒーを一口飲んだ。何かこれから重要なことが言われるのだなと思った。
「付き合ってるわけじゃないんだけど、好きな人がいて。ただ、その人には長く付き合ってる彼女がいるの。でも、最近ちょっと会う機会が増えてて」
突如知った麻衣子が置かれている状況を冷静に分析する余裕はボクにはなかった。ただ、クリスマス・イブに姉と会うと言ってたのは嘘だったのだろうと思った。
頭の中で情報処理が追いつかない状態ではあったが、ボクには人生初の告白というイベントを完遂すべく、緊張でカラカラに渇いた喉に、ほとんど氷しか残ってないコーラを流し込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「そうなんだね。でも、はっきりして良かった。教えてくれてありがとう。フラれちゃったのは残念だけど(笑)」
麻衣子は明言しなかったが、前に進むためにフラれたということは確認しておきたかった。
「ごめんね。でも、その人は同じ大学の同級生で、卒業したら直ぐに彼女と結婚すると思う。そうなったら、アタシとの関係も終わると思う」
黙って聞いているボクに麻衣子は続けた。
「だから、イヤじゃなかったら、今後も友達でいて欲しい、、、」
フラれたらきっぱり諦めようと考えていたので、麻衣子の言葉に困惑した。ただ、麻衣子が自分を拒絶していたわけじゃないことにホッとした。
「そっか、じゃあ友達で、、、」
最終的に、人生初の告白は最初から最後まで麻衣子のペースで進行し、想定とは異なる結末を迎えた。
「ずっと二人で遊んでても男女関係みたいにならなかったから、アタシのことそういう対象として見てないのかと思ってたよ」
帰り際、ひとしきり話が終わり、少しリラックスした様子で麻衣子は言った。
先に店を出た麻衣子を座席からガラス窓越しに見送った後も、フラれたこと、麻衣子が彼女のいる男と付き合っていること、ボクとは今後も友達でいて欲しいこと、でも、男女関係にならなかったことが不思議だったこと、今さっき知り得た事実が整理し切れず放心状態で席に座ったまま、コップに残った氷を口の中で噛み砕いていた。
Photo by Yanpacheeno
次回、第十話は12月31日(木)更新予定