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大和
2022年3月30日 22:06
午後8時20分の「やまびこ72号東京行き」を待つ仙台駅のホーム。「世の中には自分のことを知っている奴と、知らない奴がいる」ベテラン刑事の和さんが、少しかすれた声で、いつもよりも饒舌にそう言った。「自分の本音よりも目の前の見えることや他人の受け売りで幸せや不幸を判断するとはよくあることだ。俺は別にそれに文句があるってわけじゃない。ただ、世間の中の正しいという常識や思い込みが自分を動か
2022年3月17日 16:53
午後3時の南青山。私に襲いかかってきた男を所轄の警官に預け、和さんと私は青山通りを一本入った路地裏にある喫茶店に入ったのだが、そこにはなんと「母・丸山玲子」と和さんの元奥さん「高山つかさ」が奥の席に座っていた。「あら、和ちゃん。あ、聖ちゃんも」「あら聖也くん、大きくなったわね。元気そうで。あら和宏さん、あなたはいつもと変わらず冴えないのね」二人に声をかけられた和さんと私の間に、さっ
2022年3月16日 16:50
午後1時の南青山・青山通り。春の陽気に移り変わったものの、首筋をなぞる風がまだ冷んやりとしている。街には卒業式を終えた袴姿の女性が目立っている。ここ数年は式典や催しを自粛する企業・団体が多く、学校行事も例外ではなかった。そのせいか、この瞬間を迎えられることに感慨深く、複雑な感情が溢れている人たちが多いように見えた。「この日のために努力したのか、努力したからこの日があるのか、どっちなんだろう
2022年3月12日 19:15
午後11時の銀座8丁目。高級店が賑わう昼間の華やかさとは違い、この時間は黒塗りの車や、街角に立つ屈強そうなスーツ姿の男性、そして着物やドレスを身に纏った女性が目立ち、重苦しいが煌びやかな世界を演出している。ここ数年の不況の影響を受け、昼間は以前のような旅行客で賑わうことは少なくなったが、その分、夜の顔が大きくなったように感じる。芸能人やテレビ関係者、そして政治家や大手企業の重役たちが、たまたま
2022年3月10日 19:18
午後7時の井の頭恩賜公園。吉祥寺は中央線沿い屈指の人気スポットであり、住みたい街ランキングでは常に上位に入っている。実際、駅の北側にはサンロード商店街と大型電気店が賑わいを見せ、西に伸びるダイア街、中道通りと東急百貨店裏にひしめく雑貨店がある。そして駅の南側一体は井の頭公園を中心に緩やかな雰囲気を醸し出す癒しのスポットでもあり、週末はカップルや家族連れが目立つが、この吉祥寺周辺は緑も多くベッド
2022年3月9日 19:08
午後6時のお台場海浜公園。レインボーブリッジを「ゆりかもめ」に乗って渡ってきたと思われる学生や、デートを楽しむ数組の男女が波打ち際に押し寄せる小さな波に戯れている。砂浜では鴎の群れに幼い子供が近寄っては飛び立つというのを繰り返している。「お台場も昔と比べたら訪れる人が減ったな」ベテラン刑事の和さんが、少しかすれた声でそう言った。「そう言えば、確かにそうですね。小さい頃は母に連れられ
2022年3月6日 16:49
午前9時の新宿御苑。爽やかな鳥たちの囀りと、御苑を散歩する老若男女のほのぼのした会話が聞こえてくる。眠らない街・新宿と言われる繁華街の近くにありながら、新宿御苑は心地良い空間を作り出している。だが、待ち合わせの時間に30分遅れていることで、和さんの機嫌を損ねないか心配で気が気では無い。「和さん、すみません、目覚まし時計がなぜか鳴らなくて…」ベンチに腰掛ける和さんらしき中年の男性は、
2022年3月5日 14:26
午前2時の代官山。近くでアパレルブランドの展示会があったらしく、業界を騒がす著名人や芸能人・モデルらしき若い男女が集まったせいか、この時間でも楽しそうな話し声が街に響いている。「代官山はいつも賑やかだな」ベテラン刑事の和さんが、少しかすれた声でそう言った。「やれやれ、同世代とは言え、あんな奇抜なファッションが出来るなんて、ほんと感心しますよ。和さんの娘さんも大学を卒業したら、アパレ
2022年3月4日 14:07
午前5時の芝浦埠頭。昨晩の雨の影響を受けたせいか、ひんやりとした肌寒さを感じる。外灯には霧がかかり、視界はあまり良くない。連日続く張り込みのせいか、今日は特に気怠さが襲いかかってくる。「聖也、少し休んでいいぞ」ベテラン刑事の和さんが、少しかすれた声でそう言った。「和さんこそ休んでくださいよ。自分はまだまだ元気ですから」和さんこと「木下和宏」は同じ刑事部捜査二科に所属する