松本清張『霧の旗』を読んで
『霧の旗(松本清張小説セレクション 第6巻)』松本清張 1994.12.10 発行 中央公論新社
本書は、冤罪、獄死、弁護士のスキャンダル、女の復讐といった要素を含んだ社会派ミステリー。
兄の冤罪を信じ、柳田桐子が高名な弁護士大塚欽三に協力を求めますが、事態は思わぬ結末へ向かっていきます。
物語は昭和30年代半ばの九州で、金貸しの老女が強盗殺人事件に巻き込まれ、柳田桐子の兄で小学校教師の正夫が容疑者として逮捕されます。
正夫は被害者から生前金を借りており、殺害現場から借用証書を窃取するなど、状況は正夫にとって圧倒的に不利ではありますが、それでも彼は無罪を主張します。
思いあまった桐子は上京し、高名な弁護士である大塚に弁護の依頼を申し出ます。
しかし、高額な弁護費用を工面できないため、大塚は断ります。一審で出た判決は死刑であり、控訴中に正夫は獄中で非業の死を遂げます。桐子はその旨を大塚にはがきで伝えます。
その後、桐子は地元を離れ、上京してホステスになります。一方、大塚は桐子のはがきを読み、真犯人は桐子の兄以外にいることを突き止めます。
その頃、大塚の愛人である河野径子にも殺人容疑がかかりますが、桐子が見た犯人の姿を証言できる唯一の人物であることが判明します。
テーマ性に注目すると、現代社会で孤絶化し、陰の部分を抱えながら生きる人々にとって、法という司法制度がどのような存在かを問いかけ、その限界を浮き彫りにしている点が際立っています。冤罪や獄死といったテーマは、法と正義に対する信頼を揺さぶります。
特に、桐子が兄の死刑に対する激しい信念と大塚弁護士への復讐心を抱きながら物語が進んでいく構図が、狂気な感情の入り組んだ人間ドラマを生み出しています。
他の手立てはあったと思いますが、桐子はもうすでにパラノイアに陥っていたのだと考えられます。桐子の持つ異常な感情が、二つの冤罪を闇に葬ったという事実。感情ほど怖い凶器はないと思いました。
また、どちらが正しいとか関係はなく、絶対的な権力である司法制度という巨大なものと狂気を持って挑む無力な女性のドラマだと思いました。
今の日本の司法制度はそれなりに信じていますが、昔は少々荒っぽいところがあったかもしれません。事実、無実な人が起訴され、有罪に持ち込まれかねない事例がいくつかあります。これから先も、日本の司法制度がきちんと機能してくれることを願っています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。
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