病室に届いた想い
◇◇ショートショート◇◇
尚美が凌に心奪われたのは高校2年の時です。一目惚れでした。
転校してきたばかりの凌がクラスメートの前で挨拶をする姿がたまらなくキュートだと思ったのです。尚美の胸の中で何かが跳び跳ねました。それは尚美にとって初めての経験でした。
凌の周りだけに光が射したように、キラキラ輝いて見えたのです。
背が高くて手足も長く、さらりとした癖の無い前髪にスーッと通った鼻筋、丸くって少し垂れた瞳、どこをとっても尚美には王子さまにしか見えませんでした。
凌は見た目とは違って、どんどん前に出るタイプではありませんでした。けれどしっかりと自分の役割を果たす人です。だから初めての自己紹介も程よい時間と程よいアピールでした。
「東京の高校から転校してきました、渡瀬凌です、愛媛に来たのは祖父の故郷だからです、僕はここで友達がたくさん作れたらいいなと思っています、気軽に話しかけてください、よろしくお願いします」
尚美は彼のオーラを浴びて、再び胸がキュンとなりました。
「友達をたくさん作れたらいい」と言う言葉が、尚美の心に刺さりました。
「私、友達になってあげたい」勝手にそんなことを思っていました。
尚美はクラスに一人はいるムードメーカー的な女の子です。
小柄でふっくらとした彼女は、いつも笑顔で、回りの様子を見ながら、出来るだけ柔らかいムードになればと振る舞っていました。
誰からも愛される、いい子ですが、残念ながらクラスの男子からは、恋愛の対象としては外されている女子でした。
尚美は自転車通学で毎日自転車で通っています。
その日、自転車置き場に取りに行ってハッとしました。
凌が自転車置き場にいたのです。
「あの存在感、もーたまらんわい」尚美は心の中で呟いていました。
「あー、渡瀬凌君、あなた自転車通学なの」
「そうだよ、おじいちゃんの家が観光港の近くだから・・・」
「私はそのだいぶ手前の梅津寺、あのー、私は小池尚美です、同じクラスなんだけど・・・」
「分かってるよ、さっき会ったじゃない、よろしくね小池さん」
それから二人は、よく海を眺めながら一緒に帰るようになりました。
たわいもない話をしながら帰宅するのが二人の日常になったのです。
「凌君、クラスには慣れたー」
「うん、小池さんが色々教えてくれるから、みんなの事も随分分かって、打ち解けてきたよ」
「凌君さ、もっとガンガンみんなに近づいて行ったらええのに」
「僕は、そんなに社交性はないんだよ、ゆっくりじっくりいくからね」
「意外に慎重派なんじゃねー、凌君」
「そうだよ、小池さんとは違うからねー」
凌は、尚美と出会って良かったと思っていました。
自分がクラスに馴染んできたのも、彼女のおかげだと思っていたのです。
二人が出会って3ヶ月経った頃です。
尚美の携帯が鳴りました。
LINEにメッセージが入っています。
「僕、自転車で怪我してね、帰りの坂道で転げて足の骨を折ったらしい、入院して手術なんだ、一ヵ月は動けないって、学校にも行けないよ」
尚美はびっくりしました。
「凌君、クラスの仲間と、お見舞いに行くよ」
「ダメなんだ、コロナだからね、面会できないんだよ」
「えー、心配なのに・・・」
「ありがとう、おじいちゃんも来られないからね」
そんなやり取りをして、数日間過ごした後、尚美は決心しました。
「取り敢えず、私が凌君に元気パワーを送らなきゃ」
尚美は学校の帰り道、凌が入院している病院の近くまで自転車を走らせます。
到着して、LINEを入れました。
「凌君、私今、病院に来てるんだ、横の駐車場にいるんだけど、病室から見えるかな私、窓際なんでしょう、私が分かったらメールくれる」
暫くすると凌からメールが届きました。
「見えた、見えた、ピンクのパーカー来てるね、手を振ってみて小池さん」
「あー見えた、分かるよ、小池さん、ありがとう、何だか元気が出てきたよ」
尚美は凌にもっとパワーを送りたいと考えました。
そして恥ずかしい気持ちを振り払って、両手で頭の上に大きなハートを作りました。
尚美の隣で、車の誘導をしているガードマンが笑っています。
尚美は、何度も跳び跳ねて、凌にハートパワーを送りました。
すると病室の凌からメールが届きました。
「尚美ちゃん、退院したら、一緒に映画を見に行こうよ、今日はありがとう」
そのLINEで、凌は初めて尚美ちゃんと呼びました。
それから二人の交際が始まったのです。
尚美にとって、甘~い高校生活がこの時から始まりました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《silentに影響されたんよ》
※92歳のばあばと娘の会話です。
「早く治って映画を観に行けたらええねー、人の出会いは分からんわい、あんたどしてそんなん書いたん」
「silentに影響されたんよ、何となく」
「物語の中で、色々楽しんだらええわい」
「未熟な物語の中でねー」
私もショートショートをどんどん磨いて、素敵な物語が書けるように頑張ろうと思います。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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