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素うどん先生と夏休み

◇◇ショートショート

 僕には忘れられない先生がいます。素うどん先生です。
もちろんニックネームです。
いつも先生が御馳走してくれていたのが素うどんだったからそう呼ばれていました。

先生は、子どもたちを連れて釣りやキャンプや小旅行に出かけ、その帰りにはよく食堂に連れて行ってくれました。

お前らお腹がすいとろがー、何か食べるか
と聞いて、僕たちが頷くと
「なら、素うどんを食べるぞ」とニコニコしながら食堂に入って行きます。


「先生、オムライスはいかんのー」と聞くと「俺の小遣いでは、素うどんしかおごれんわい」と言いながら、先生も美味しそうに素うどんを食べていました。
先生はうどんが大好物だったのです。

僕が、素うどん先生のクラスにいたのは春から秋まで、両親の仕事の都合でその間だけ田舎の祖父母と暮していました。

夏休みに初めて海で泳いだことが忘れられません

小学校の目の前が海水浴場で、クラスの仲間のほとんどがスイスイ泳げていたのに、僕一人だけが取り残されていました
都会育ちの僕にとって海の匂いは新鮮でしたが、プールでしか泳いだことが無い僕は、海で泳ぐのが何故か怖かったのです

浮き輪に体をのせて、波任せに遊んでいた僕を見て、素うどん先生が言いました。

「海で泳ぐんは気持ちええぞ、プールとは違うけんな、波の音を聞きながら泳ぐんは格別なんぞ、今日は先生が海の良さを教えてやるけん
そう言って、僕から浮き輪を取り上げると、僕の体を思いっきり海の中に放り投げました。

僕は驚くほど海水を飲んで溺れるかと思いました。
その時、何故だか僕の心に火がついて、僕はありったけの力で先生に海水をぶつけました。

それから暫く、二人で海水を掛け合って大騒ぎした後、先生は僕に海での泳ぎを教えてくれたのです

初めは手を引いて波間で泳ぎ、その内、少し離れた所から素うどん先生が立っている場所まで泳ぎ、どれだけしょっぱい水を飲んだか分かりませんが、帰る頃には十数メートル泳げるようになったのです

先生はその日も帰りに子どもたちを連れて食堂に行きました。
「お前ら、疲れたろう、今日も素うどんぞ」と言って、自分は店の外に出て行きました。

その日、財布に500円しか入っていなかった先生は、10人の子どもたちに素うどんを注文して自分は我慢していたのです

本当に子ども思いの先生でした。
僕は両親と離れて暮らしていたので、素うどん先生の優しさがいつも心の癒しでした。

夏休みの間、僕たちは先生にどれだけ素うどんをご馳走になった事か

出汁の中に、うどん一玉、ネギと薄いかまぼこがのっかったシンプルな素うどんがいつの間にか僕にとってのご馳走になりました。

夏休みが終わってすぐに、僕は10月に両親のもとに帰る事が決まりました。

先生にその事を話すと素うどん先生は僕にこう言いました。
お前、素うどんが食べたくなったら、また食べにこいや、先生が御馳走してやる、何時でもええぞ、何時でもこい

眉毛も髭も濃い素うどん先生は、顔をくしゃくしゃにして僕を見て笑っていました。

僕は「先生、今日ご馳走してや」と言うと、先生は「おう、素うどんしか奢れんぞ」と大きな声で答えていました。

あれから60年、僕は夏休みの海のしょっぱさと素うどん先生の笑顔を忘れたことがありません

【毎日がバトル:山田家の女たち】

《あんた書いてくれて有難う》


「あんた、このショートショートお父さんがモデルじゃないん、よう家に子どもらが遊びに来よったねー、お父さんも素うどんをご馳走しよったがねー
旅行にも行きよったし、保護者も一緒にキャンプしよった、あの頃はよかったなー」

「お父さんは本当にええ先生じゃったと思う」

「あんたお父さんをモデルに書いてくれてありがとう」

今回はグループで開催の夏のお題企画に参加して書いたショートショートでした。父の事を思い出すことが出来て私としてもとても嬉しいです


絵日記の瀬戸の小島や夏休み

母が今日の文章投稿をイメージして、小学生の絵日記をテーマにイラストと俳句のコラボ作品を創作しました
夏休みの宿題の絵日記には、心に残る思い出を記したものです。
少年の夏の思い出は海です。
家族と小島に渡り、眺めた瀬戸内の穏やかな青い海、何時までも記憶に残る美しさです
私も瀬戸内の夏の海には父との思い出がぎっしり詰まっています。


最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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また明日お会いしましょう。💗


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