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歳だからと自分から老けていくな★ピンクビキニ★


2021年3月25日。誕生日おめでとう自分!

「赤いちゃんちゃんこの代わりに、オレのお気に入りのピンクで祝おうね」

私の2021年誕生日の祝い方について、夫はそう言い続けていた。

昨年の今ごろ、癌宣告を受け闘病がはじまった直後には、「来年もピンクビキニの姿が見たいから、オレ諦めないから、頑張るから」と希望を持っていたけど、残念ながら7カ月後に力尽きた。

願いは叶わなかった。

子どもたちが巣立ってから、旅に出る余裕ができて年に一度か二度は夫婦でカリビアンリゾートにでかけるようになった。

きっかけは、「いつか行きたい」と思っていたカンクンへの旅をわたしが勝手に予約したことから始まった。カンクンはメキシコのユカタン半島にあるリゾート地で、世界じゅうから人が集まる。乱立する施設で競争が激しいこともありかなりお値打ちだ。日本の高級旅館のことを思えば、破格値といえる。飛行機代と宿泊、飲食全て込みで激安パッケージがいくらでもみつかる。

バックパッカーや若者向けの安宿から、家族連れ向けのファミリーリゾート、そしてカップル向けのアダルト・オンリーリゾートと、求める旅形態や予算にあわせて選り取りみどりだ。

何の前知識もなく、はじめて予約したリゾートはアダルト・オンリーのオールインクルーシブだった。子ども禁制で家族連れはいないため、カップルにはもってこい。大人ムードでロマンチックな滞在を楽しむことができた。

全てが含まれていて、飲食のために財布を持ち歩く必要もない。滞在中は飲み放題、食べ放題、ビーチやプールサイドでのアクティビティなども含まれていて大満足だった。

最初はそれほど乗り気ではなかった夫も「こんな世界があったとは!」とすっかり気に入った。なにしろ、アダルト・オンリーということもあり、セクシーなビキニレデイーたちもわんさかいて、滞在を楽しませようとするスタッフたちの絶妙なエンターテイメントのネタもアダルトで、滞在者を飽きさせない。

年配カップルもたくさんいて、サンサンと降り注ぐ太陽の下で、ふくよかなお腹同士の夫婦が片寄せあったり、手を繋いだりしながら、ビーチの散策を楽しんでいる。まわりを気にすること無く、それぞれの時間を楽しむ姿が微笑ましくて、人間ウォッチングしているだけでシアワセな気分になった。

同性愛同士のカップルもけっこういた。人目をはばかることなく、愛し合う人たちが、思い思いのバケーションを満喫していた。

ビーチで波音を聞きながらココナツのジュースを飲んでみたり、小腹が減れば数あるレストランで、好きなものが食べ放題。お腹が満たされたらプールサイドバーでお好みのカクテルを注文。

フローティンググッズに体を横たえて、ぷかぷかと浮かびながら飲んでいると、同じようにぷかぷかと浮いている人たちがハーイ、オラーと挨拶してくる。「どこから来たの?」「楽しんでる?」「そのカクテルは何?」なんてたわいもない会話から、旅先での思い出に残るひとコマが生まれる。

ディナーも、カジュアルなレストランから、高級感あふれるレストラン、イタリアン、フレンチ、アジアン……といろんなスタイルが選べる。ドレスコードのあるレストラン用に、セクシーなドレスを持参してきている人たちもいる。ふだんの暮らしではなかなか着られないようなドレスを着て、ちょっとしたセレブ気分を味わいながら、オトナな食事の時間を楽しむのだ。

ディナーのあとはナイトクラブで踊ったり、ショーや生バンドを堪能。まさに寝る間も惜しんで体力が続く限り、リゾートライフを満喫するのだった。

日々の暮らしでは味わえないこんな時間を持つことで、カップルは目の前の見慣れたパートナーが、意外に美しかったことに気づいたり、熱烈だった若き日々を思い出したりするのかもねって、夫と話した。

なるほど、リゾートライフってこういうことも含めて楽しみ方なんだと知った。「仲良し夫婦でいるために、なかなかいい方法だよね」ということで意見が一致。

以来、カリビアンリゾートへの旅は我が家の恒例行事となったのだった。

それからの夫は、いい加減しなびてきている妻に自分が着せたいと思う水着を買うことまでが趣味となってしまったが、そこに至るまでに、一度夫婦喧嘩になった。

「もういい歳なんだから、ビキニなんか着れるわけないでしょう。何考えてんの!」とわたし。

「歳なんか関係ないだろう。どうして自分から老いていこうとするの?せっかくきれいなのに、どうして勝手にきめた“年相応”に自分をはめるの?」と夫。

「そんな小さなビキニ、恥ずかしくて着れるわけないったら!(怒)」

夫は続けた。デザインが嫌いで着たくないならわかるけど、年相応じゃないから無理とか、ビキニが恥ずかしいというなら、それは違うと。

そのうちに、夫が妻に着てほしいとお願いしてなぜいけないの?とか、なぜ妻がそんなことを聞き入れなければいけないのだとか、自分の着る水着は自分で決めるだのと、ケンカはどんどんエスカレートした。

思い返すと笑ってしまう。

いい歳した夫婦が、妻の着る水着で大喧嘩したのだから。

まさに犬も食わん!

でも、振り返ればこれはいい夫婦喧嘩だったと思う。

愛だの恋だのというステージからは程遠くなった熟年夫婦の夫が、妻にピンクのビキニを着てほしいというのだから、一歩引いてみれば微笑ましいと言えなくもない。

妻は、そんな夫に「いくつだと思ってんだよ。このヘンタイ夫」と返しながらも、心の中では「夫婦歴ウン十年、こんなに歳とっちゃってるのに、まだそんなリクエストをするってカワイイかもな」とも思った。

そして、冷静になってよく考えた。夫の言うことも一理ある。そうだ、自分で勝手に「年相応にしないといけない」と思いこんでいたかもと。

その気付きを得てからは、「そんなことであなたがハッピーになれるなら、それもいいかも。じゃあ、なんでも着てあげるから、ショッピングも楽しんで」ってことになった。

かくして、「妻に着せるカワイイ水着」をネットショッピングする夫と、その様子を「おもしろい夫と結婚しちゃったな」と思いながらリゾートライフを楽しみにする夫婦ができあがったのだった。

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夫がいちばんお気に入りだったピンクのビキニ。夫のスマホの中にしまってあった画像を発見。まさか、これが最後の二人の旅になるとは……。この後ろ姿を見ていた夫は10カ月後には、いなくなった。

このときは夢にも思わず。

人生ってほんとに儚い。

だからこそ、つまらないことにとらわれず、好きなようにすればいいんだ。

もし、夫が今日生きていてくれたらどこかのビーチでこれ着て二人でお散歩していたかもしれないのにね。

ほんとうに残念。

夫よ、ケンカのたびにわたしは新しい自分になれた気がする。

あの日の夫婦喧嘩から学んだように、これからも年齢にとらわれることなく、自分らしく生きていくね。


#あの会話をきっかけに


こちらも夫婦のエピソードです。


★はじめての方はこちらもどうぞよろしく★

今お読みいただいた記事についてみかんさんが泣くほど何かを感じてくれたことに感謝の気持ちを込めて。⬇

亡くなった夫への想いを消化するために書いたエッセイ⬇


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yahoi /ライフエディター・エッセイスト
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