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たまの日記です。
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2018年12月の記事一覧

年末の習慣

†中沢新一『精霊の王』いつの頃からか、年末は中沢新一の著作に親しむのが慣行となっている。年の暮れに暖かい部屋で、世間に訪れた束の間の終末的な雰囲気を浴びながら、氏のテクストが紡ぐような超世間的な宗教的思考に触れることが、ひとつの快楽になっている。

今年選んだ本は『精霊の王』。春先にちょうど講談社学術文庫に入っていて手に取りやすくなっていた。

『精霊の王』でも、中沢お得意の、古代から現代を貫く超

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セオリーの魅力

†レヴィ=ストロース『アスディワル武勲詩』『仮面の道』ちくま学芸文庫から出ている2冊のレヴィ=ストロース本。『アスディワル武勲詩』と『仮面の道』。実はこれまで『構造人類学』しか繙いていなかったのだけど、『仮面の道』の文庫化を期に手を出してみた。

『アスディワル武勲詩』は一本の論文、『仮面の道』は一冊の体系的な書物から成っていてるが、実はどちらも人類学の大家であるフランツ・ボアズの採集した説話やも

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忘れてよいことと忘れてはいけないこと

忘年会の時期らしい。現実を忘れるために生きている者にとってはまったく無関係な話だ。何だったら昨日のことすら覚えていないため、忘れるものを忘れているという無の状況である。そういうわけで年末の空気もおかまいなしに、今日の読書。

†辻田真佐憲『空気の検閲』大日本帝国の検閲は法令を根拠とする「正規の検閲」と、法令外で出版社を相手に談合をもち内面指導を駆使して自主検閲の方向へコントロールしようとする「非正

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布団のプルースト

†ジョゼフ・チャプスキ『収容所のプルースト』岩津航訳大戦中ソ連の捕虜になったポーランド将校が収容所でおこなったプルーストについての講義。本もなくただ記憶のみに基づいて語られたその講義は、文学の読書が時間もメディアも超えてなお持続し、誰かと語ることが可能なのだということを示している。収容所でのアダプテーションは文学や読書の限界を示すのではなく、逆に人間の生を拡張する自由を明かしている。ポーランド人が

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12/22 歴史と正統性

†歴史の語りかた大門正克『語る歴史、聞く歴史』を読んだ。共時的に人々の生や体験した出来事を記録し、大文字の書かれた歴史に回収されないような、個人の微細な歴史を書き留めるオーラルヒストリー。今日ではだいぶ広まってきたオーラルヒストリーを、それでは通時的な視点から振り返り、人々の歴史についての聞き語りを近代から通史的にまとめるならどのような歴史が書けるだろうか、というコンセプトの本。

明治維新以後か

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