Safe in their Alabaster Chambers — メリークリスマスの部屋で
Safe in their Alabaster Chambers —
Untouched by Morning —
And untouched by Noon —
Lie the meek members of the Resurrection —
Rafter of satin — and Roof of Stone!
Grand go the Years — in the Crescent — above them —
Worlds scoop their Arcs —
And Firmaments — row —
Diadems — drop — and Doges — surrender —
Soundless as dots — on a Disc of Snow —
雪花石膏の部屋でやすらかに、
朝にも動かされず
昼にも動かされず、
復活を待つやさしい人々が眠っている。
サテンの垂木と
石の屋根の下。
歳月は重く過ぎ
彼らの上で三日月を描く
世界は物語を掬って
天は漕ぐ
王冠は落ち、
従者たちはひれ伏す
雪の円盤に
黒い点のように
音もなく
最近はなかなか詩を訳せていなかったので、何か訳したいなと思っていたのですが、今日はせっかくのクリスマスですし、ちょっと意識してこの詩を選んでみました。
どうしてこの詩がクリスマスっぽいかというと、
まず雪が出てきます(単純)。
それから、Resurrection(復活)、
Firmament(天=神の国)、
といった単語や、
後半の詩の展開からも察せられるように、
この詩にキリスト教の思想を読むこともできるでしょう。
さて、
前半は、
the meek members of the Resurrection 復活する優しい人々
とあることから、
死者が横たわっている部屋の描写だと分かります。
ここで私たちはどのような死者を想像できるでしょうか。
自分の人生で亡くなった人、
かつては近くにいたけれどもう会えなくなってしまった人、
自分の中の死んでしまった部分、
色んな死があると思います。
後半では、
①the Years go Grand in the Crescent above them
時が死者の上を三日月の軌道で進行する
とありますがこれはどういうことか。
死者の上に成り立つ時の流れ、
これはつまり「歴史」のことではないでしょうか。
面白いのが次の、
②Worlds scoop their Arcs
です。
調べてみるとScoopはカタカナのスクープのことで、
新聞に大スクープが載る、などと言うときのスクープですが、
本来はすくうモノ、
シャベルとか、アイスクリームすくいのことを指すそうです。
(ちなみにスコップはオランダ語から来ていて別の単語。)
すくうということは動作としては、
下に差し込む、持ち上げる、上に引き抜く。
これはちょうど詩の前の行で、
死者の上を三日月の軌道が通過するという動き、
後ろから昇ってきて、上に達し、昇ってきた方と反対に落ちていく、
この動きとちょうど対になって、
あわせて綺麗な円環になっているではありませんか!
そう読んでみると次の、
③Firmament 天。
天体観測の用語で、
夜空を、観測者を中心点にして描いた球に見立てた、天球という言葉があります。
ここで円が球になる!二次元から三次元へ。すごい!
……ちょっと気がはやってしまいました。落ち着きましょう。
①は歴史と解釈してみましたが、
②はどうか。
僕はArcを、「物語」と訳しました。
Arcは弧の意味もあるのですが、
scoopという単語の選択によって弧を描く動きはすでに表現されているので、
Arcは別の意味ではないかと思ったのです。
Arcのもう一つの意味が、物語。
歴史と物語が出会って、天が動き出す。
いつのまにかもの凄いスケールの詩になっています。……
こうなってはもう、
生きている者も死んでいる者も、
みんな一緒くたになって、
今この瞬間の地位や名誉、
幸福や寂しさは、
どれも同じちっぽけな黒い点にしか見えない。
ディキンソンの詩はそんな途方もない世界を一瞬のうちに、
見せてくれるのです。
しかもそれを荘厳な調べではなく、
静謐さの中に描き出すというのが、
他の誰でもない、
いかにも彼女らしいところです。
しかし急に俗な話になってしまいますが、
僕は昨日も今日も仕事で、
クリスマスの恩寵をあまり受けていない気がします。
去年のクリスマスとか何してたんだろう?……去年も普通に仕事でしたね。まあ内容は今とは違いますが…。
でも、去年はもう少し、クリスマスの夜に一人でいることに対する焦りというか、寂しさみたいなものはあって、精神的にジタバタしていました。今年はそういうのがないですね。一人に慣れてきたのかな。そう言うとあまり良いことではない気がしますが、妙に落ち着いています。
いま、外は雪の降りしきる中、ぼくは会社の社員寮のひとり部屋でこの文章を書いているのですが、
エミリ・ディキンソンもまた、雪深いアメリカの田舎町の一人ぼっちの部屋でこの詩を書いたのだということを思うと、じんわりと胸が温かくなってきます。
この一人の部屋から、
私たちは言葉で、どんな遠い場所にだって行けるんだと、
ディキンソンが、ディキンソンの詩が、
教えてくれる。
彼女がその存在をかけて体現する想像力と言葉の持つ力は、私たちが生きるうえでも、きっと大きな励みになるでしょう。
浮かれた世の中で傷ついても、
そんな世の中を達観してしまっても、
みんな、
ちゃんと復活できると思います。
『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICHINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR
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