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来るべき人新世のために


斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書

後輩と会って食事をする前に、
話の種になるかと思って読むつもりが、
約束の日までに読み終わらなかった本。

ちなみに、
その後輩も読んでいませんでした。

少しの安堵と落胆を感じつつ、
その日はイタリアンを食べながら漫画の話をしました。

別の日に別の後輩と会ったときには、
すでに八割がた読み終えていて、
ビーフストロノガノフを食べながらすでに浮かんでいた感想を語り、
まだ読んでいないという後輩は、
ランチの後に寄った本屋で、
この本を買っていました。


新書を読んだのは久しぶりでしたが、
とても面白い本でした!

冒頭からインパクトがあるので少し引用してみましょう。


温暖化対策として、あなたは、なにかしているだろうか。レジ袋削減のために、エコバッグを買った? ペットボトル入り飲料を買わないようにマイボトルを持ち歩いている? 車をハイブリッドカーにした?
はっきり言おう。その善意だけなら無意味に終わる。それどころか、その善意は有害でさえある。
なぜだろうか。温暖化対策をしていると思い込むことで、真に必要とされているもっと大胆なアクションを起こさなくなってしまうからだ。


(3ページ)


続いて著者は、近年注目を浴びているSDGs、これもダメだと言います。

なぜか?

それはどちらも、今の社会の仕組みを変えずに、社会を変えようとする運動だからです。
いや、多くの人が動けば社会は変わるでのはないか?
たしかに、多少は変わるでしょう。しかし、そもそもこのような世界になってしまった原因、世界をこのようなものにし続けているシステムがあるのに、それは変わらないままなのです。

そのシステムとは何か?

そう、資本主義です。

ところで、
資本主義を批判した本は、今までも世の中にたくさんありました。
この本のタイトルにも入っているカール・マルクスの『資本論』もその一つ。
しかし、
資本家による労働の搾取、経済格差、といった従来の論点だけでなく、環境問題、グローバル化、といった比較的新しい論点も含んだ、広い視野から資本主義の問題を多角的に炙り出し、さらにこれから実現すべき、資本主義ではない、新しい社会のビジョンを説得力のある形で示しているという点では、これほどの本は今までなかったのではないでしょうか。とても新鮮でした。

ちなみに、
資本主義にかわる新しい社会のシステムとは、
「脱成長コミュニズム」。
著者が晩年のマルクスから着想を得て、打ち立てたビジョンです。

資本主義批判として、労働から環境まで包括的な観点から批判しているのが新鮮だったと書きましたが、
資本主義への対案としては、この「脱成長コミュニズム」が新しいところです。

資本主義のほかに何があるか、と言われると、多くの人は共産主義(社会主義)を思い浮かべるでしょう。そして、
いや、共産主義はちょっと、……
と、やはり多くの人はなってしまう。

ところが、著者によると、
マルクス=資本論=共産主義、という理解はもう古い。

どういうことかというと、
マルクスはずっと同じような主張を繰り返していたわけではなく、研究や反省を続けながら、自らの理論を更新していこうとしていた。生前に著作としてまとめることはできなかったが、それらのアイデアはノートに書き込まれていて、そこに晩年のマルクスが何を考えていたのか、そのヒントがあるというわけです。

このあたりは著者の研究者としての顔が出ていて、読んでいてとくに面白かったです。

あとは個人的に、
資本主義とその外部の話、
資本主義が潤沢なものを奪い人工的な希少性を生み出す戦略、
価値と使用価値の対立、
商品による包摂、
自然と人間の物質代謝、
分業の問題、
ブルシットジョブとエッセンシャルワーク、
古代ゲルマンの「マルク共同体」、

などが興味深いポイントでしたが、
まだまだ、
本書の中にトピックはたくさんあります。


全部分からないと読めないという本ではないので、
自分の関心のあるところだけ読んでもいいと思います。


今の社会の根本的な問題は何か知りたい人、
これからの社会について考えたい人に、
ヒントがたくさん詰まった一冊です。



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