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短編集

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#短編小説

ラズベリーのゼリー

合成されたチェリー味のキャンディで 舌が赤く染まってベタついている。 少し前から、鈍色の…

m.
2年前
9

雨の街

鈴蘭の街灯がぼんやりと、雨に濡れた寂れた街を、憐れむように照らしている。 通りには人影は…

m.
2年前
4

夢見草

 不意に思い立って、町外れの山奥の古い精神病院へ、叔父へ会いに行くことにした。  何とな…

m.
3年前
12

無色の色彩

狭い浴槽に溜められた、無色彩のはずの水面が、他の何の色よりも鮮やかで、恐ろしいほどに綺麗…

m.
3年前
10

蝶形骨とナルシスの溺死

人間が蝶を愛するのは、人間の、その頭蓋に1匹の蝶々を飼っているからである。 無論、全ての…

m.
3年前
9

酩酊と境目

片田舎のバーで、夜毎アルコールをグラスに注いでは、拙い手つきでビルドをし、その夜に顔を合…

m.
4年前
7

テディベア

記憶を反芻する。記憶を回遊する、生産性の無い作業を、ただ繰り返す日々を送っている。 ベッドサイドのテディベアは薄汚れていて、それが酷く愛らしく思えて、彼を手放せない一因となっていた。此の所記憶が化膿し、ぐずついているのは付き合いの長くなり過ぎた彼のせいでもあった。 見る度に蓋をした物事で、脳が飽和するような、オーバーヒートを起こすような、記憶の断片達の雪崩が起きる。 それらは的確に私の喉元を絞め上げ、窒息させようと、気管支を埋め、肺を侵食する。それから頭の中で途方もない膨

レェスの火傷

瞬間的な強い痛みと、熱さを感じた。 しまった、やってしまった。 出せない手紙に封をする仕…

m.
4年前
11

幽霊

何度か、浅い呼吸を繰り返し、その後に深呼吸に近い、深い呼吸を何度か繰り返した。 空気は僕…

m.
4年前
8

路上、猫は肉塊になる

とても良い夜。 濃霧で空気もアスファルトもじっとりと湿っていて、お陰で車の周りは外の何も…

m.
4年前
6

夾竹桃

先生、もうずっと視界が藍色なんです、先生。 あ、いや、灰色じゃないんです、あの清々しいよ…

m.
5年前
20

白昼夢の詳細

近頃、遂に気がおかしくなったのか 白昼夢を見るようになった。 つい先刻は、自室の戸を開け…

m.
5年前
7

結露

もう初夏の陽気だというのに、頭の先からつま先まで氷の如く冷えている。先刻、彼女の体温に触…

m.
5年前
7

妙に白く澄んだ色、作り込まれたように完璧な形で、浮かび上がる筋。 初めて彼女を視界に捉えた瞬間に、その首を締めたいと思った。 別に彼女の生き死にをどうこうしたい訳ではなかった。 ただ、その白い肌に僕の爪を食い込ませて、そうしてできる薄紅の模様が見たかった。細く危ういバランスで頭部をささえるそれを、一瞬僕の手の内に入れたかった。 その欲はあまりにも強く僕の中で蠢いて、何度か、彼女のそれを締め上げる夢を見るほどだった。 僕が初めてその欲望に取り憑かれた日から、何