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レェスの火傷

瞬間的な強い痛みと、熱さを感じた。
しまった、やってしまった。

出せない手紙に封をする仕事をしていると、時折スプゥンから溢れたロウで自らの手を焼いてしまう。

軽い場合はすぐに瘡蓋になり、私の体から離れていくのだが、今回はそうもいかないらしい。

溢れた大粒の金色のロウが糸を引きながら、右の人差し指と中指を繋げていた。私の筋張った指先を、飾るように繋げながらじりじりと焼いていた。

ロウが冷めるのを待って、そっと私から、冷えた金色を剥がす。そっと。そしてその間、少しばかりロウの美しい輝きが皮膚から無くなってしまうのを寂しく思いながら、ゆっくりと剥がす。

金色の装飾が剥がれた皮膚はすでに水膨れを形成しようとしていた。
メッキの剥がれた金属はきっとこういう心持ちなんだろうなと、馬鹿みたいなことを考えながら、応急処置の出来る薬を探す。

積み上がった出せない手紙達を崩さないようにそっと装飾の美しい机の引き出しを開ける。
紙とペンとウサギの頭骨、ニガヨモギとアニスの束と、出せない手紙が流した涙から作った香油、それらが規則正しく並んでいる。
どれも応急処置には使えそうもない。

燭台を持ってそっと移動し、部屋の隅のキャビネットを開ける。
ホルマリン漬けの番いのネズミに、絡み合う二匹の蛇の骨格標本、甘ったるい香水が数個と古い本が乱雑に押し込まれていた。

じんじんと痛む指先で、それらを引っ張り出しては戻し、引っ張り出しては戻して、ようやく昔作った軟膏を見つけだせた。
ティートゥリーとラベンダーの香りのそれを申し訳程度に塗り付けたそこは、もう既に大きく膨れ上がり周囲の皮膚まで引き攣れて痛んだ。

仕方が無いので、出せない手紙をついばんで遊ぶ鴉の嘴を借りて、大きな水疱に小さな穴をあけてもらった。
穴からは私だった物、が止め処なく溢れてできて、埃の被った床に水玉模様を描いた。
出せない手紙達が心配そうにこちらを見ながら、ひそひそ言葉を交わし合っている。

大丈夫よ
大丈夫、すぐに治るから大丈夫

そう声をかけると手紙達は安心したようで、またとろとろと眠りに落ちていった。

また指に目を落とすと、水膨れは綺麗に中身を失って余った皮膚が複雑なヒダを形成していた。
ギャザーのようにもレェスの様にも見える、それを私は気に入った。酷い痛みは止まないけれど、それすら気にならない程に火傷で出来たレェスは、美しく私の指を彩っていた。

ねぇ見て、レェスの指輪が出来たの、見て

と自然と上がってしまう口角を抑えながら、部屋の鴉に話しかけた。

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