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酩酊と境目

片田舎のバーで、夜毎アルコールをグラスに注いでは、拙い手つきでビルドをし、その夜に顔を合わせた名前も知らない誰かの、その胃の中に、その脳に心地よい酩酊が訪れる事を願いながらそっとグラスを手渡して日々を過ごしている。

ビルドの段階でカチャカチャと音を立てては、マスターに、まだまだ下手くそだなと揶揄われながら、甘い匂いの水煙草と薄暗い照明の中で、コンクリートとデジタル、液晶に絶え間く送られてくる通知、過密かつ希薄になった人間関係。

それらに疲弊しきった、薄灰色の顔をした初めましての誰か達に、束の間の休息を与えられるように、なるべく私の日常であり、彼らの非日常に近い話題を提供する。

体を改造する現代社会のプロディジー達や、忘れ去られたような古い映画、新しい視点を開拓しては投獄され、それでも真実を主張し続けた遥か昔の天文学者の話。

はたまた、道端で不意に見つけた花壇の花の美点や雑草と呼ばれているもの達の本当の名前や彼らに自然が割り振った薬効や色彩的美しさ。

現実と夢の境のような会話を延々と繰り広げ、そうして週に一度だけ語られる千夜一夜物語のような物の続きを、またいつか顔を合わせた時に、まるで遥か昔からの知り合いかの様に話せる事を願いながら、彼らを身を見送る。

客入りの少ない日は、早々に店の看板を仕舞い込みCloseの札を掲げながらカウンターで、棚に綺麗に並べられたボトルから一本だけ選び取る、スパイスドラムかスコッチか散々悩んで、結局全く別のラムを選んだ。

計量もせず、だいたいこんなもんだろうと、ロックグラスに綺麗な色のそれを注ぐ、アルコールに触れたロックアイスがその身から霜を振り落とし、キラキラと輝き出す瞬間が好きだった。
トロピカルフレーバーの普段なら飲まないラム酒。

程々の酩酊の中で、明日には忘れてしまう様な取り留めのない、くだらない話を、疲れた顔のマスターと唯繰り返して、誰にも提供しない、私だけの夢と現実の境目を飲み下した。

#ここで飲むしあわせ

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