古代の中国語や日本語なんかとくらべてみる。『中国語とはどのような言語か』橋本陽介
誰でも知っている中国語、你好(ニーハオ)。你(ニー)は「あなた」という意味ですが、古代の中国にはなかったそうで、古典に出てくるのは「汝」とか、「若」、「而」、「爾」という言い方。漢文っぽいですもんね。
現代中国語では彼=「他」、彼女=「她」ですが、中国語ではこの2つの言葉を区別しませんでした。でも、1920年代以降、外国語の影響を受けて、彼と彼女を区別するようになったのだそうです。こういう言葉の歴史のお話、大好きです。
最近評判の橋本先生の本は、こんな風に古代と現代の中国語を比較したり、英語や日本語とも文法構造なんかと比較して、とてもおもしろく説明してくれます。ちょっと専門的なので、できれば中国語は中級くらいの人が読むとすごく楽しいと思います。
もちろん、専門的な話以外にも、雑学っぽく読める話題もあります。基本的には第一章、第二章あたりの語彙や基本文法にかかわる部分です。例えば、中国語にはイエスやノーにあたる言葉がなくて、肯定文や否定文を繰り返すという話。数を数える「箇」の漢字は、もともと竹を数えたから竹編とか。
日本語は話し手の主観に同化した語りを好む言語で、受け身の表現が多いけれど、中国語の受け身というのは「被害に合う場合」に使われるので、直訳すると変だとか。
「聞」がもともと「聞く」を意味する漢字だったのに、唐代以降「匂う」の意味に変化したり、「飲む」意味の漢字が「喝」に変わって、日本語に古代の意味が残っている話もおもしろいです。これは、中国人の先生に何度か聞いた話です。
あとは「麦当労」や「肯徳基」がマクドナルドやケンタッキーと若干発音がずれているのは、もともと広東語に入ってきたからで、広東語だとちゃんと本来の発音に近いとか。なるほど、納得の理由があるのですね。
アメリカがなぜ日本語で「米国」となり、中国で「美国」になるのかというと、最初は中国でも日本の明治時代の漢字、亜米利加(亜米利加)=米国が使われていたけど、日本の漢字を北京や上海の発音で読むと英語の発音から離れてしまうので、より英語に近い「美国」の発音に変化したとか。これはフランスの「仏国」が中国で「法国」になったのも同じ理由だそうです。
そして、近代の欧米の知識が日本の翻訳経由というのは確かにそうなのだけれど、そればかりでもないという話は始めて聞きました。日本で作られた「科学」。中国の古典にある言葉を日本人が西洋知識に転用した「経済」。江戸の蘭学者が作った「解剖」。
その他、中国に来た外国人たちが作った言葉が日本に伝わり、さらに中国に逆輸入された例もあるそうで、例えば「科学」「紅茶」「民主」「銀行」なんかがそれにあたり、純粋な和語が現在中国で使われている事例としては「場合」「手続」「取消」「人気」なんかもあるそうです。
そして、中国の古い言葉にも、モンゴル語起源だったり、鮮卑や突厥起源だったりする言葉があるそうで、こういう話は読んでいるだけで楽しいです。中国語だけでなく、日本語に興味がある人にもおすすめですね。