見出し画像

海の向こうの中学生ライフ。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ

すごく詩的なタイトルなので、どこから出てきたのだろうと思ったら、なんと中学生になった息子さんが書いたブレーズなのだそうです。

子どもは、自分たちがマイノリティたど思えるような環境で生活していたり、両親が大変な状況だったりすると、時々、どきっとするような大人びた顔をします。みかこさんの息子さんも、小学生のときにはわからなかった、アイデンティティについて考えるようになる。そんな、イギリスの中学生生活が綴られています。

日本人からすると、あまりにはっきりしすぎている階級社会のイギリス。だけど、日本に比べてコミュニティがちゃんとあって、助け合いがあるように見えるイギリス。実は、たぶん順序が逆で、イギリスみたいな階級やら経済格差が激しい社会は、それを緩和するようなコミュニティがないとやっていけないんだと思います。

大寒波が来たら、ボランティアに出て、ホームレスの人たちに食料を配ったり、一次避難場所を手配し合ったり。中学校の制服リサイクルのボランティアに参加したり。児童虐待の家族から、子どもを引き離して里親に託したり。そういうシステムがしっかりしていて、ちょっとびっくりしますし、うらやましいです。

そうかと思えば、ティーンエイジャーの失踪がしょっちゅう問題になって、捜索願が新聞に数多く乗ってしまう環境の辛さ。貧困地域では、麻薬がらみで売人に取り込まれてしまう確率が高いとか。知り合いの女の子が行方不明になって、慣れている息子さんが「インスタにあげとくよ」と要領よく対応してくれる一方で、彼女のカトリックの中学校はイメージ低下のためにホームページで公表したりしない矛盾。

白人ばかりのカトリックの小学校に通っていたみかこさんの息子さんは、中学では敢えて元底辺校(だけど、最近がんばって成績をあげている)に通うことになります。宗教も人種も雑多で、トラブルも多いけれど、それでもなんとか状況を変えようとする先生たちや、お互い助け合おうとする親たちのエピソードが眩しいです。

いい人ばかりではないですが、いろんなトラブルを前向きに捉えようとする息子さんが素直です。イジメや環境問題、多様性の問題を、悪いじゃなくて、coolか、uncoolなのかで自分の行動を選択しようとする子どもたちが、とっても微笑ましい。

そして、みかこさんは日本人で、東洋人のアイデンティティを持ってるけど、息子さんは日本にもイギリスにもそういう気持ちを「持てない」と言うあたりがリアル。イギリスでは「チンク」(=中国人)と言われ、日本に行くと「ガイジン」と言われる息子さん。みかこさんが、性急に結論を出さずに、見守る感じなのもいいですね。

それにしても、息子さんの成長具合が、映画『シング・ストリート』っぽいのがさすがというか、なんというか。思春期になると、男の子の多くはバンドを組みたくなるものなんでしょうか。可愛すぎます。そして、文才ありすぎ。成長が楽しみで、続きも楽しみです。




いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集