糸を引くおもしろさ。『幻のアフリカ納豆を追え!』高野秀行
定期的に読みたくなる高野さんの本。今回のテーマは、納豆。この本より先に『謎のアジア納豆』っていう本を出していたらしいけど、まあ、こういう読書は気分なので、順番とか前後しても問題なし。高野さんの本は、いつ読んでも、どこから読んでもおもしろいから大丈夫。
私の人生の裏で糸を引く怪しいやつがいる。それは納豆だ。
ほら、プロローグの1行目から、もう高野ワールド。
高野さんは東南アジアへの旅で、何度も納豆の仲間と出会ってきた。でも、それほど強い印象はなかった。でも、東日本大震災の前後、日本で改めて納豆を取材していくと、興味深い事実を知るようになった。
そして、アジアでも中国南部から東南アジア内陸部、ヒマラヤに至る地域、つまり中国、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジア、ネパール、ブータン、インドでアジアは食べられていることがわかった。そして、どちらかというと辺境食で庶民食。ここまでがどうやら『謎のアジア納豆』にまとめられているらしい。
そして、本書はさらに納豆を極めるべく、韓国とアフリカに向かう。もう、この旅がめっぽうおもしろい。なんせ、高野さんはアフリカも中東も詳しいから。予備知識も人脈も半端ないから、革命やら内戦やらで危ないアフリカも、それなりに行けてしまう。
納豆をつくっている地域は、戦争をしていたり、反政府ゲリラの地盤だったり。つまり、政治の中心地から遠くて、隣国との国境に近かったり、山がちだったりする。そんな場所を取材するには、海千山千の協力者がいないとえらい目にあう。だから、おもしろい高野さん以上に、協力者たちもぶっとんでいる。
アフリカのいろんな国の納豆&食事事情。味の素の進出加減。大学のセンセイとかだと、ついうっかり納豆だけのレポートになりがちだけど、主夫の高野さんは作り手の家庭事情もしっかり観察してくれる。
韓国では、北朝鮮との国境に近い非武装地帯で生産される納豆。あまりにも庶民の味過ぎて韓国人もどうやって食べているか、よく知らない。有名な庶民料理の「納豆汁(チョングッチャン)」。最近は、自然食とか無農薬、もしくは有機農法的な文脈で見直されているらしい納豆。
資料がないし、生産団体も多くないので、あっちで空振り、こっちで無駄足みたいな取材をしつつ、高野さんたちはだんだん核心に迫っていく。歴史もそれほど古くなさそうなのに、限界集落のおばあちゃんたちの年季の入り具合は笑えるし、韓国人の善意のプッシュは本当におもしろい。
とにかく楽しい納豆レポート。1冊たっぷりのボリュームで、アフリカと韓国をさんざん旅して、文化人類学のお勉強した気になれます。おすすめ。