中国古代の兼愛・非攻の思想。『墨攻』酒見賢一
アンディ主演の映画『墨攻』を見て、とてもおもしろかったので、早速原作チェックしました。当時、娘の3歳児検診で仕事が中断して時間ができたので。中島敦記念賞受賞作だったんですね。しかも、コミカライズもあるとは知りませんでした。酒見さんの『後宮小説』が大好きだったのに、アニメ化を知らなかったうかつさ、相変わらずです。
さてさて、『墨攻』も酒見さんの独特の文体に夢中になり、あっという間の読了。原作は映画に比べて、短くてびっくりです。物語は、とても理知的というか、地味というか、将棋とかチェスのように進みます。でも、それがいい。
文章も簡潔にして充分。本当に無駄がないのに、古代の戦乱の状況が目に浮かびます。漢文的な文章が引き立つのは、やっぱり中国を舞台にしているからなんですよね。
弱肉強食の戦国時代、いろんな思想家が出た中で、墨家は攻められている弱者に加勢する人たち。彼らの中でも特に主人公は、極めて合理的に、戦争の勝利に向けて最短距離を行こうとします。しかし、多くの人間は感情の生き物で、ごく一部の人は自分が自滅しても他人に優位に立たれたくない阿呆です。結末がとてもあっけなくて、リアリティがありました。
映画版は、原作ファン(とくに漫画原作ファン)に評判がイマイチみたいですが、私は原作未読だったのでこだわりなく楽しめました。とくに、直前に見た日本映画の予告編が大陸を舞台にしていながら、箱庭のような動きしかできていなかったので。邦画には邦画の得意、不得意があるんだなあとしみじみ思った次第です。
で、小説の原作を読んだ後でも、映画はまあ、あれでよかったんじゃないかと思っています。強いて言うなら、ラストはいっそ小説に近いバッドエンドで。そして最初から、小説の原作みたいに戦争職人っぽい主人公にして。
韓国の名優アン・ソンギが、丁重にアンディを弔う場面は見たい。でも、地味すぎて映画としてはボツなんでしょうか。漫画は壮絶に原作を越えた話らしいので、余裕ができたらチェックしてみたいです。