予想を超えた、破壊力あるメッセージ。映画『窓ぎわのトットちゃん』
今の中国の書店には、日本文学の翻訳がたくさんあります。村上春樹さんを筆頭に東野圭吾さん、宮部みゆきさんから松本清張さんなど日本でも有名な作家さんたちの本から、私が知らない作家さんの本まで幅広くあって、外国文学コーナーで一番大きなスペースをとっています。
中国で日本語の本が紹介されるようになった、最初の頃からあるのが黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』。いわさきちひろさんのかわいいイラストは、中国の本屋のどこに行ってもあった気がします。調べてみたら、最初に中国のベストセラーリストに入ったのが2003年でした。
というわけで、ずっと気にはなっていましたが、よむ機会がなかった『窓ぎわのトットちゃん』。今回、映画化に関連していろんな情報をキャッチするにつれ、原作者黒柳徹子さんのハンパじゃない力の入れようが伝わってきて、「もしかして、劇場で見とかないとまずい作品なのでは?」との予感から、夫と2人、仕事後のレイトショーにすべり込みました。
働き盛りの井上雄彦さんが、『スラムダンク』の映画化にかけるパワーはわかります。でも、黒柳徹子さんは1933年生まれの90才。いくらアーティストに年齢は関係ないといえ、一般人と女優さんを比べても意味がないとは知りつつも、80才を過ぎて認知症になってしまった母が身近にいる身としては、驚きしかありません。
さて、映画の『窓ぎわのトットちゃん』です。予告編を見ただけの印象は、『この世界の片隅に』の子供バージョンかなあと思っていました。でも、ガチの小学校教育映画で、文科省推薦映画とは真逆な、リアルな表現とファンタジー的表現がキレキレに交錯する、めちゃくちゃアーティスティックで、パワフルなアニメでした。
個人的な感想は、『この世界の片隅に』よりハード。きついという意味じゃなくて、パンチがあるという意味で。子供って、大人みたいに気を使ったり配慮したりしないから、ナチュラルにおもしろいけど、ナイフみたいに危なっかしくて、無邪気に残酷だったりします。そんな小学生の目で見た、在りし日の東京。
物語の始まりは1940年なので、中国との戦争は3年前から始まっていますけど、小学生になったばかりのトットちゃんの目にそういうものは映らず、毎日が楽しいことばかり。普通の小学校を追い出されたトットちゃんは、集団生活を乱す異分子でしたが、トモエ学園ではすんなり迎えてもらいます。
トモエ学園の校長先生のモデルは金子宗作という実在の人物で、「リトミック」という幼児期の人格形成教育を普及した人とのこと。毎日お散歩しながら、体力づくり&自然観察。音楽の勉強は身体全体で。ごはんを食べるときも、楽しくみんなで考えたり、おしゃべりしたり。少人数で、かつ先生も優秀でないと、とてもできないことばかり。
いろんな方向にパワフルな子どもたちを、可能な限り「やりたいだけやらせて、納得させる」って、親と子の1対1でも大変です。そんな理想の教育を体現する校長先生に役所広司さん。トットちゃんに振り回されるけど、それでもやさしいママに杏さん。最近、映画で杏さんと遭遇する率が高くてうれしいです。
病気で身体が少し不自由だけど、知的でしっかりした男の子泰明ちゃん。彼とトットちゃんの友情がおわりを告げると、今まで画面にさりげなくちょっとづつ忍び寄っていた戦争の影が、一気に押し寄せてきます。
泰明ちゃんの喪失と、トットちゃんの子供時代への別れを描いたシーンは、CGがすごいとか、作画が緻密だとか、色彩がすばらしいとか、そういう技術的なものを一切必要としない、歴史のリアルを見る人たちに突きつけるものでした。内容で有無を言わせず、観客に迫ってくるアニメは衝撃。
噂によれば、映画と原作は少し内容が違う(まとめ方が違う)ということで、映画『スラムダンク』と原作コミックみたいな感じでしょうか?それを確認したいので、なるべくはやく原作を読むことにします。
そして、可能な限りの人にこの映画をおすすめしたいです。とりいそぎ、小学校の先生を目指している娘には、「絶対、必ず、何があっても見て!おごるから!」とLINEしました。あいみょんの主題歌も映画のイメージにぴったりで好きです。