上質な和風中華のエンタメ『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』夢枕獏
実在の人物、空海を素材にした、伝奇エンターテイメント小説。
最初は、空海と逸勢コンビが、どうにも『陰陽師』の清明と博雅に見えるし、何事につけもったいぶっているような空海が今ひとつだったけれど、細部に散りばめられる作者の古典知識を楽しんでいるうちにそれも気にならなくなりました。
そして、2巻当たりからジェットコースター並に展開するストーリーに圧倒されて、この分厚い1冊500頁弱がすらすら2~3時間で読めました。もちろん、部分的に突っ込みを入れたくなる所がないわけじゃないけど、そういう瑣末なことをいうのは無粋だから。
唐の時代の有名人たち、高校教科書にも出てくるような人たちがポンポン出てきて、もうオールスター総出演って感じでわくわくします。よくもこんな話を思いついたなあと感心、感動。個人的には逸勢の個性をもう少し出して欲しかったけど。優秀なのに不遇だったというそのあたりを。
この物語からは、中国の土の匂いがしません。脂っこさや汗臭さ、乾いた砂の風も照りつける太陽も感じられません。本編では「刺骨」なんて言葉も引用しているけれど、骨を刺すような大陸の寒さもありません。
どこかの感想ブログに和食の名人が作った中華料理と書いてあったけど、上手いたとえです。中国を舞台にして登場人物も中国人や多数で中央アジア系も混じるのに、皆、日本的に行動して日本的に話を進めてしまいます。
あんまり中国クサくない話だから、今まで中国が舞台になった小説を読んだことのない人にも、抵抗なく読んでもらえるかもしれません。そう思えば、和風中華もまたアリだとは思います。私は、この後、入門書として司馬遼太郎の『空海の風景』に手を出してしまいました。こちらも、おもしろかったです!
この作品は2017年、日中合作で陳凱歌が監督して映画化されました。中国語のタイトルは『妖猫伝』。こちらも、中国色が強い映画に免疫のない人にも楽しめるエンタメ映画でよかったです。
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