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香港、華南が育んだグローバル中国語。『広東語の世界』飯田真紀

香港の映画でおなじみの広東語。中国南部の言葉で、東南アジアやアメリカにわたった華僑たちの言葉でもあって、いわゆる中国の「北京語」(この本では、”普通話”の代わりに便宜的に使われている)とはドイツ語とフランス語くらい違う、……ぐらいしか予備知識のない私。どんな言葉なのか、わくわくでページをめくりました。

広東語の発音は、東南アジアの言葉の影響もあるけれど、実は日本語とも深いつながりがあるそうです。それもそのはず。日本語は大昔の中国から、漢字を取り入れ、ついでに字音も取り入れ、日本語の発音の仕組みに合うように改編しました。時期的に、呉音と隋・唐音といった違いがあるけれど、どちらの音も、今の広東語と同じ子音があったとのこと。

そういえば、昔、中国から音韻学の先生が日本に来たとき、日本語の漢字発音にいちいち喜んで、「本当にそんな発音するの!?」、「懐かしいね!」、「すごい!」とハイテンションだったことを思い出しました。

そんなわけで、古い言葉を読むのは、なんと広東語が有利(!?)。唐の時代の杜甫や李白の漢詩は、現代中国の北京語では失われてしまった押韻(韻を揃える技術)があって、広東語にはそれが残っているんだそうです。

広東語には、中国の古典に出てくるような古風な言葉がある一方で、語源のはっきりしない言葉もたくさんあるのだとか。いま、広東語が話されている地域の古代に漢族はいなくて、タイ・タガイ語族が住んでいて、この人たちの使っていた言葉は、タイ語に近い。だから、広東語は、こういう東南アジアの人たちの言葉の要素も含んでいるそうです。

そうかと思うと、近代中国では南が欧米諸国との交易の入口だったので、外来語もたくさんあるそう。例えば的士(タクシー)や巴士(バス)は、北京語の出租車(タクシー)や公共汽車(バス)と違う単語になっています。でも、マクドナルド「麦当労」は広東語経由で北京語にも浸透。だから、英語の発音から少し遠くなっているのがおもしろい。

この本を読んで一番驚いたのは、広東語の日常会話は発音どおりに書かず、漢字にするときは北京語で済ますということ。広東語の「無問題」は北京語の「没問題」と書く。でも、発音は「無問題」。広東語でありがとう「唔該」も、漢字で書くと北京語の「謝謝」とか。なんか、すごいバイリンガル!

……っていうか、日本語も漢字に大和言葉をあてたんだっけ。つまり、日本式?(違

海外の華僑の言語には、大きく分けて広東語と福建語があるそうで、しかもかなりローカルな方言が反映されていて、かなり違いがあり、だからこそ、ルーツとコミュニティがものすごくはっきり別れていて、複雑だとか。それは、渡辺さんの『台湾のデモクラシー』でも紹介されていたとおり。

深く知れば知るほどおもしろい、広東語の世界。そのうち、誰かが福建語の世界とかも紹介してくれるとおもしろいなと思いつつ、堪能しました。私には語学の才能はないけれど、だからこそ、できる人が調べて書いてくれた本は大好き。

広東語や中国語が好きな人、香港映画が好きな人だけでなく、言葉や言語が好きな人にもおすすめです。


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