何気ない日常が愛おしい。映画『本日公休』台湾、2023年。
舞台は台中の下町。昔ながらの理髪店を40年続ける主人公のアー・ルイ。長年のお得意さんに電話をかけて、予約をとって、生活しています。息子や娘たちは、それぞれ独立して母親の店兼理髪店にはあまり寄り付きませんが、娘の元夫は、孫を連れてちょくちょく散髪に来て顔を見せてくれます。
ノスタルジーを感じるのに、すごくリアルにも感じるのは、ロケが傅天余監督のお母さんのお店だから。実際、監督はお母さんをモデルにこの映画を撮影したのだとか。ご近所さんたちとのおつきあい(兼商売)とか、親子二代(下手すると三代)の散髪をまかされる感じとか、本当に田舎だと「あるある」です。
私も小学生も高学年になると、美容院にも行ってみたいのに、近所の理髪店にいかされて、すごく不満だった思い出があります。だからといって大人になって都会に出ても、美容院選びってすごく難しくて面倒で、大体、よさそうなお店を一つ近所で見つけて、ずーっとそこに通う派です。でも、店によってはスタッフさんが異動したりして、通い続けるのすら結構大変。
さて、映画ではアー・ルイがいつものように常連客の一人に電話をしたら、高齢で理髪店に通えるような状態じゃないことがわかります。そこで、彼女は危なっかしく車を運転して、遠方まで出張することにします。この展開はロードムービーみたいで、思わぬ人に出会ったり、ちょっとしたハプニングもあり。
一方で、アー・ルイの道中の要所要所で、うまい具合に回想シーンで挿入される、息子や娘たちとのやりとりがリアル。台北に出て男にも仕事にも苦労してそうな長女、近くに住んでいるけど上手くいかないセールスマンの長男。そして、離婚した次女は美容院で働くものの、従業員よりは効率重視の経営者向きの性格で、善人の夫とは全く性格があわない。
この、いまどき「あるある」な家族のエピソードのおかげで、単なる「昔はよかった」的な映画じゃなくなっているのがいいです。時代はどんどん変わっていって、人も変わっていくけれど、変わることを拒否するおばちゃん、変われないおっちゃんたちもいい味だしてます。
落ち着いた物語なのに、コミカルでほっこり、あるある共感して、ラストはちょっと泣けて。台湾のいいところが全部つまっているような映画。カサカサした心に、染み込む感じが好きな人におすすめです。