古代のロマンスとまつりごと。『隼別王子の叛乱』田辺聖子
田辺聖子女史が、仁徳天皇陵出土と伝えられる埴輪の女子首から『古事記』幻想をふくらませ、恋愛と政治をからめたロマンあふれる小説に仕上げたそという本書。(写真は、以下のサイトで)
仁徳天皇陵は結構近いので、本書に出てくる耳原(みみはら)なんかの地名が、とても身近に感じられます。聞き慣れた地名ってだけで、想像力をかきたてられやすいですね。逆に、慣れない地名は、漢字の字面だけで想像するしかないのが結構つらかったりします。
余談ですが、仁徳天皇のいたとされている時代と、前方後円墳の時代は結構離れているので、専門の人曰く、仁徳天皇陵は通称みたいな呼び方で、本当は「大仙陵古墳」とか「大仙古墳」とか呼ぶそうです。
『隼別王子の叛乱』は、確か氷室冴子さんのエッセイに紹介されていたのがきっかけで、手に取った気がします。でも、氷室さんの『銀の海・金の大地』や荻原規子さんの勾玉シリーズの持つ少女(青春)小説的読みやすさとは無縁。大鷦鷯尊(おおさざきのみこと)や磐之媛(いわのひめ)大后なんて、名前の読み方を覚えるだけでも大変。
加えて、権力ある登場人物の性格に陰影ありまくりだし、若い登場人物は、若さがそのまま性急さとか愚かさに直結してます。脇役たちの思惑もかなり複雑だし、そこに渡来系の登場人物や奴隷たちの話も加わって、それぞれに生々しい。いまどきのライトな小説やドラマに慣れている身としては、最初だけちょっとびっくりしつつも、一気に読んでしまいました。
きっと、田辺さんの『古事記』や『日本書紀』そして『万葉集』に対する造詣の深さ、思い入れの強さが小説のあちこちにあふれているので、そのあたりが魅力なんじゃないかと思います。
ただ、古代が舞台だし、かなり綿密な資料を網羅した上での創作なので、女性の登場人物たちに辛い物語です。残念ですが、青春小説とかラノベじゃないので。表紙だけは、最近リニューアルされています。氷室冴子さんや荻原規子さんが好きな人は、騙されたと思って、ぜひ読んでみてください。
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