トラウマケア/トラウマセラピー:身体の小さな動きがもたらす、深い心の癒し
短い動画ですが、具体的でわかりやすく、示唆に富んでいると感じたので、紹介します。
パット・オグデン(Pat Ogden)博士は、身体に働きかけるトラウマセラピーのひとつ、センサリーモーター・サイコセラピー(Sensorimotor Psychotherapy(SP))の創始者です。
『身体はトラウマを記録する』の著者べッセル・ヴァン・デア・コークが、トラウマ治療において身体に働きかける具体的な方法を模索していたときに、パット・オグデンのセラピーを知り、その手法を認めたことをジェニーナ・フィッシャーが語っています。(https://note.com/witmiffy/n/nfbbf6083ca2d)
トラウマを抱えた人の感情(内面)が、表情やしぐさ、姿勢などの外面に表れること、そして、そのような外面に働きかけることで、内面に影響していくこと。ただしそれは、本人の気づきによってなされる必要があることが、この動画から理解できます。
<動画の概要>
トラウマを抱えた、ある女性のクライアントについて。
彼女は過覚醒(興奮状態)になりやすく、セラピーで彼女の身体をモニターしていった。
彼女は両手を合わせて握っていた。その手の動きについてセラピスト(Pat Ogden)が質問すると、クライアントは、既に他界した彼女の母の手がとても美しかったこと、母の手を握っていた記憶がよみがえったことを語った。彼女の母親はアルコール中毒により、スラム街で孤独な最期を迎えたけれど。
手のジェスチャーがきっかけとなって、彼女は、落ち着き、母親とのポジティブな記憶を呼び戻すことができた。
セラピストがしたことは、クライアントが自分の手の動きに注目するように注意を向けたこと。
身体はとても賢く、クライアントは、自らの身体の賢さを発見することができる。
<感想>
とてもささやかな、セラピーの一場面であっただろうと思います。
でもそれは、大きな気づきでもあったことでしょう。
自らを癒すきっかけを身体は持っています。身体からの、その小さな呼びかけに意識を向けていくことで、自分に必要な、自分だけに理解できる癒しが、きっと誰にもあるのだと思います。
パット・オグデンは、かつて1970年代に精神病院でヨガやダンスを教えていた際、それらの身体的な運動が患者に良い影響があったため、身体へのアプローチが精神症状に影響することを発見したと、以下の動画で述べています。(4:05頃~)
数年前に、ポリヴェーガル理論について書いていた時に気づいたそうですが、ヨガは、とてもゆっくりと、リラックスするので、低覚醒になっている患者が、安全に取り組むことができて、良い影響があった。
反対にダンスは、とても早く、エネルギッシュで、生き生きして楽しいものなので、患者が安全に覚醒することができて、良い影響があった、と述べています。
日本において、トラウマのセラピーが精神科の病院で行われることは、現状はコスト面も含めて難しさがあると思いますが、ヨガやダンスのクラスを行うことなら、既に取り組んでいる病院もあると思うし、セラピーよりも取り入れやすいのではないかと思います。
精神科の病院では、傾聴の時間も少なく、主に投薬で治療されているケースも多いと聞きます。そこに身体面へのアプローチとして、ヨガやダンスのクラスを設けて、希望者に参加してもらう、というのは、今の日本でもできそうなことなんじゃないかなと思います。