メチル基のバトンリレー、メチレーション
※本記事は、過去のWordPressブログ記事を一部修正して再掲載しています。
葉酸の代謝が上手にできない遺伝子を持った人が3人に一人いると言われています。
この遺伝子欠損を持った人は、普通の葉酸サプリを飲んでもフルに活用できません。これは葉酸の代謝初め、身体の大切な生化学的反応のうちの1つ、メチレーションに関わります。
身体の機能は消化や代謝を含め、物質が他の物質の助けを借りながら変換していくことで働きます。その中でも体のいたるところで行われるメチレーションという反応。
メチル基という物質を、ビタミンB12、葉酸、メチオニン、SAMe、ホモシステインなど様々な栄養素の代謝が歯車のように噛み合いながら、バトンリレーのように渡していく反応です。
このメチレーションは様々なことに関わります。
エピジェネティックの遺伝子スイッチのオンオフ
DNA・RNAの合成
セロトニンなど脳内伝達物質の生成
最強の抗酸化物質グルタチオンの合成や解毒
ヒスタミンの代謝
エストロゲンなどのホルモン代謝
脂肪の代謝
細胞のエネルギー生成
肝臓の機能
このメチレーションでは特に葉酸の歯車が回っているかどうかがとても重要です。
葉酸の代謝の歯車では、食材に自然に含まれる葉酸である「葉酸塩」が体の中に入ると酵素の働きで形が変わっていき、最終的に「5-メチルテトラヒドロ葉酸」に変わることで、葉酸としての作用が初めて働きます。この「メチルテトラヒドロ葉酸」に変えるために必要な酵素を「5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)」と呼びます。この酵素を作る遺伝子がMTHFR遺伝子。
お父さんから1つ、お母さんから1つずつ受け継いでいる遺伝子の組み合わせの型のうち、677C/Tと1298A/Cの型が、この酵素がうまく働くかどうかに影響します。
2個で一対の2種類の遺伝子型の中で、変異型の677Tと1298Cが多ければ多いほど、この酵素が働かなくなります。要するに葉酸の歯車を回せず、葉酸を体内で使えない。
この葉酸歯車がそもそも回っていないと、葉酸の代謝だけでなく、メチル基のバトンリレーを始められないのです。バトンリレーのスタートを切るところでつまづいて動けなくなる。
そして、メチレーションがうまく動いてない状態に関わるのは;うつ・不安症含む気分障害、高血圧・メタボ・高脂血症・動脈硬化などの心疾患・糖尿病、がん、アトピー・花粉症・喘息などのレルギー疾患、繰り返す流産、子宮内膜症などの婦人科系疾患、関節炎、自閉症、ADHD、炎症性の疾患、甲状腺の問題、肝硬変などの肝臓の疾患、栄養吸収不全、様々な依存症など、さまざまな疾患に関わります。
またメチル基が重要なのは、DNAや抗酸化に関わること。メチル基がDNAに装飾することで、DNAのスイッチのオン・オフが入るのですが、それががんの遺伝子の発現に関わっていたり、また、体内で一番重要な抗酸化物質のグルタチオンの産生に関わっています。火事の火種がDNAであれば、火が着いてしまった後に、その消化活動に関わる消防隊のグルタチオンをどれだけ作れるか、そんなところにも関わってきます。
メチレーションが回っていない人(アンダーメチレーション)は上記疾患以外に以下の症状を伴うことがあります:
慢性のうつ、慢性頭痛、慢性疲労、季節性アレルギー、依存性、さまざまな恐怖症
完璧主義、意志の強さ、高いモチベーション、反抗的行為の経歴、強迫性行動の傾向、内的な緊張を秘めた冷静な外観、病気の否定、過去の出来事の反芻、寡黙なタイプ、強い競争心、強い性欲、儀式的行動
痛みの耐性の低さ、汗のかきやすさ
慢性の便秘、弱い髪、薄い体毛
SSRIや抗ヒスタミン剤への反応の高さ、ベンゾジアゼピンや葉酸(Folic acid)への副反応、自殺願望傾向、食事のフレキシビリティの低さ
高ホモシステイン血症、上限値を超える肝臓値、上限値を超えるMCV
心疾患やうつなどの家族歴
また、逆にメチレーションが回りすぎている人(オーバーメチレーション)の症状は以下の通りです:
不安症、パニック障害、多動、妄想癖
うつ、不眠障害、耳鳴り、上体部・首・頭の痛み、多毛
痛みの耐性の高さ、ドライアイ、ドライマウス、性欲の減退、体重過剰
信心深さ、美術・音楽のセンス、低いモチベーション
低血中ヒスタミン濃度、低好塩基球数、過剰な銅の蓄積
食・化学物質過敏症、抗ヒスタミンへの不耐、リチウム摂取による改善
SSRIや抗ヒスタミン剤への副反応、SAMeやメチオニンへの副反応、ベンゾジアゼピンによる改善、エストロゲンセラピーへの不耐
自然の「葉酸塩(Folate)」は人工では作れません。
MTHFR遺伝子欠損を持っているアンダーメチレーションの人が人工の「葉酸(Folic Acid)」を飲んでも、MTHFRの酵素が上手に作れないので、葉酸の歯車は回らず、葉酸は作用せず、またメチレーションも動きません。残念ながら、日本で市販されている葉酸は普通の「葉酸(Folic Acid)」であることが多いです。
そこをうまく動かすためには、すでに「5-メチルテトラヒドロ葉酸」の形になっている葉酸サプリが必要になります。これが「活性型」「自然型」「メチル化」と呼ばれる葉酸です。「5-メチルテトラヒドロ葉酸」「レボメフォラート・カルシウム(葉酸メチルカルシウム塩)」「ホリナートカルシウム」など全てMTHFR酵素のいらない活性型葉酸。海外の葉酸サプリは、成分表をよく見ると、何で作られた葉酸なのか明確に記載されています。これらメチル化された葉酸は海外ではすでに市販でも売られていて一般的なものです。
ただし、オーバーメチレーションの人が、活性型のビタミンB(B12含め)を摂取するとメチレーションが過剰になりすぎて、逆効果になります。
10年ほど前、メチレーションに関してはナチュロパスの間で猫も杓子もメチレーションの話をするほど盛り上がっていて、23andMeなどの遺伝子検査が流行しました。ただ、これも、身体は一つの機能だけで成り立っているわけでないので、遺伝子変異の「木」だけにとらわれ「森」を見ないと必ず足元をすくわれます。活性型葉酸だけをとればよいわけでもなく、ビタミンB12や補酵素のビタミンB6、B2、ビタミンC、亜鉛なども必要な場合が多くあります。
また、MTHFR遺伝子欠損の他にメチレーションの働きを阻害する要因を除去することも大切です。
重金属、汚染、化学物質
炎症
加齢
栄養の偏り
アルコール摂取、喫煙
心疾患やメンタル系の疾患にとても重要なメチレーション。何よりも、流産や神経管欠損(NTD)の予防のために不可欠の葉酸が働いているかどうか。正しいサプリメントの選択とバランスのとれた食事はとても大切。
以下にメチレーションで有名なアメリカのナチュロパスのDr.リンチのSeeking Healthのメチレーションチャートを載せておきます。このチャートがメチル基のバトンリレーに関わる栄養素の化学反応です。ここに記載の各要素が更に脳内伝達物質や他の物質に関わってくるので、全体像はこの数倍のものすごいことになります。ネットを探せばどこかで見つかるかもね。
私が学生のころはメチレーションに関するテキストはまだなくて、アサインメントで自分で勉強させられました。今の学生はテキストがあって、先生から学べるので羨ましいです。
これらMTHFR遺伝子(677C/Tと1298A/Cの型)の検査などは分子栄養学の先生のところで、アメリカの遺伝子検査などを受けさせてくれるところもあります。興味がある人は受けてみるとよいですね!