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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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相克と赦し。映画「戦場のメリークリスマス」と原作「影の獄にて」。

1983年の邦画「戦場のメリークリスマス」は当時大ヒットを記録し 今でも「なぜか」クリスマス映画として親しまれている 大島渚監督作品 だ。 ジャワの日本軍捕虜収容所を舞台にしたローレンス・ヴァン・デル・ポストの小説「影の獄にて」の映画化を構想した大島は、イギリスの若手プロデューサー、ジェレミー・トーマスと組み、ニュージーランド領ラロトンガ島で撮影を敢行して本作の完成にこぎつけたが、衝突する日英の軍人をデヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしという異色のキャストが演じて騒然

『知ってるか?小説の中のリプリーは捕まらないんだぜ!』 「太陽がいっぱい」と小説「映画篇」。

1960年のフランス映画「plein soleil」、邦題「太陽がいっぱい」は、アラン・ドロン主演、我が国でも大ヒットを記録した、犯罪映画の名作だ。 解説 アラン・ドロンの出世作であり、ヒッチコック監督作『見知らぬ乗客』や近作『キャロル』の原作者パトリシア・ハイミスの代表作の映画化。貧しい青年トム・リプリーは富豪の友人を妬み、その莫大な財産を手に入れるため、殺害計画を実行。彼は友人になり代わる完全犯罪を成功させたかに見えたが―。ニーノ・ロータ作曲のテーマは永遠の名曲。 物語

旅の終わり、世界の始まり。「ゲバラ日記」を読み、「チェ39歳 別れの手紙」を観る。

無謀な計画、というものが世には存在する。 1966年、革命家チェ・ゲバラが夢見たのは、ボリビアを起点とした中南米の同時革命だった。キューバの前例があるから、ボリビアでも通じるという理論。 理論は破綻した。だが、それを一言で断じたり、責めたりすることはできない。 「チェ 39歳別れの手紙」はゲバラ暗殺までの、ボリビアのゲリラ活動を語る。 チェを「ボーダーライン」のアレハンドロ役、ベニチオ・デル・トロが演じ スティーブン・ソダーバーグが監督、撮影(別名義)を務めた。「コンテイ

マンガ「冷食捜査官」_ 空腹の人間だらけの、おかしく、おいしいディストピア。

過密・公害・荒廃に混沌の度を極めた夜の摩天楼都市の終末像。 気が滅入るほど混沌とした、未来のダウンタウン。 あるいは、椎名誠曰く「きわめて未来的な機械や道具などが、手垢にまみれ、角角が消耗してすり切れたようになったりしているリアル感」。 「ブレードランナー」以降、サイバーパンクは漫画・アニメ・映画で、これまた手垢に塗れるほど題材にされてきた。 もちろん、それを愛に溢れたパロディ作品も、一定数存在して。 私が好きなのが、とり・みき原作の漫画「冷食捜査官」だ。 動機は“食べ

自分を守るということは。「流れる星は生きている」(藤原てい・著)

自分の命は、自分で守る。 書くのは簡単だが、しかしそのやり方は、だれもおしえてくれないのだ。 一九四五年八月、敗亡の報せを国外で受けた日本人は、誰も守ってくれない中で、帰還することを余儀なくされた。 敵に恐怖し、憎悪に怯え、同胞同士押し合いへし合いする中を 逃げに、逃げに、逃げた。 その一群の中に、3人の子供を抱えた藤原てい(1918−2016)がいた。 敗戦後の混乱がひと段落したころ。 新京からの引揚げを始めた八月九日の夜から一ヵ年の苦しい月日のうちに起ったできごとを、

この世の終わりをかたわらに。「滅亡について」(武田泰淳・著)

不安の上に不安が重なり世界の終わりを予感する、落ち窪んだ気持ちになるとき 読み返したくなるのが、この本だ。 作者である武田泰淳は日中戦争に2年間従軍、終戦時は上海に滞在しており、命からがら帰国した。 国の破れ、価値観の転倒 という衝撃は、彼に、世界滅亡を予感させた。 だから彼は「世界の破滅」を、言葉の力で手繰り寄せる。歴史を読み解き、大小問わぬ滅亡、鋭い滅亡のあたえる感覚をゆっくりと反芻する。 2万文字が、2時間の映像に勝る、瞬間だ。 冒頭部を引用しよう。 まず彼は「滅亡