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若草
2020年5月25日 18:34
夜と朝が挨拶を交わす。特別だと思っていた金色の世界。だけど、お日さまはどんどんと登り、景色はあっという間に見慣れた色へと移ろいゆく。「帰ろうか」サクラが、自分に言い聞かせるようにつぶやく。人間と猫による愛の逃避行は、あっという間だった。金色の世界に包まれているときから、きっとサクラはそう言い出すだろうと、名残惜しい気持ちもあるが、何処かではわかっていた。仕事へと向かう人の波に逆らっ
2020年5月24日 23:06
ガタン、ゴトン。生まれて初めて乗った電車は、人間に抱きしめてもらった時の、鼓動のリズムと何処か似ている気がした。全ての生き物は、生まれた時から死ぬまでに胸打つ鼓動の数が同じだと聞いたことがある。ただ、音の速さが違うのだ。ネズミは早いから寿命も早く訪れるし、カメはとてもゆっくりだそうだ(ご主人様が言っていたことだから、本当かは微妙だ)。吾輩は猫であるが、人間の心臓の音は、猫より少しゆっく
2020年4月23日 19:45
吾輩、黒猫・朔(さく)にはたくさんの兄弟がいた。「なぁ、頼むよ。一匹もらってくれないか」生まれたばかりで、目がまだぼんやりとしか見えていないころ、二人の男の声が聴こえた気がする(定かではない)。「え、でも俺は独り身だし、動物を育てたことはないよ」「でも、可愛いだろう?うちはもう手一杯なんだ。頼む。どの子でも良いから」こうして、吾輩はご主人様に選ばれた。「いいかい。お前は“預かる”だ