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詩集 幻人録

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#創作大賞2023

松に蟻

松に蟻

松の木の影に沿
蟻が歩いている
松の木の影が無くなると
蟻はぐるりぐるりと回ってみせた

それだもんで私は
松の木の一部になった
蟻は私の身体の影枝を
沿って歩き出した

私は幸福感に満ち
松の木のふりをした
何処へ向かうか蟻んこよ
そんなもんは私には関係のないこと

晴れ渡る午後の
日陰の話

娯楽蝶

娯楽蝶

崩壊は花弁の様に
再生は根の様に
輪廻のある世界に住んでいるのは
私達の特権

霧雨はリボン刺繍の様に
嵐はダメージジーンズの様に
雨音さえも着こなしてしまうのは
あなただけの特権

鳴り止まない世界の雑音は
孤独にしておくには勿体ない
ほらよと其れに飛び込んで
私と一緒に騒ぎましょう

余白のない毎日なんて
一日もないこの空間で
好奇心を食べ尽くすまで
私は歩みを止められない

物憂げに囁く吟遊

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am3

am3

真っ暗な洗面台の下にしゃがみ込む
時刻はam3
眠れない夜の終われない夢

希望の灯火はついたままだが
この空間は暗いまま

スマホの灯りだけがただ
太陽に照らされた馬の目の様に光ってる

この時間に洗面台の下にしゃがみ込んだ私は
もう希望から離れられない

うつらうつらとしなくとも
夢は見れるとたくらんだ

このまま朝までここに居ようと企てた
何故ならここは天国で
もの静かであり
心情の額縁がは

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臆病に

臆病に

皆が寝静まった刻
私は物語を書くのです
悲哀の話
これが私の全てだとしたならば
私は怖くて
世に出せない

否定的構文に刺されては
命を削られ剥がされます

淀んだ川の隅っこで
光を焚いて書くのです

水面の音が生きていて
私を包み込んだなら
私はひとりじゃないと知るのです

あゝ心の浄化場よ
魂の洗い場よ
私に心地よい布団を用意しておくれ

灰

空飛ぶ愛が燃えました
燃えたら灰になりました
そのまま散っておやすみなさい

私の心はいつぞやの
二人で濡れた帰り道
びしゃびしゃになり笑ったことがらを
絶え間なく繰り返しております

膝を擦りむく様に
血が出ては化膿し跡に残る
私は身体を揺すっては
大きくなるための準備をします

神経痛だと騙しては
涙を膝の傷に塗ります

これが生きると言うことなのでしょうか

工業船

工業船

旧江戸川に聳える工業船の入り口までは
金具の寄せ集めの橋を渡って
カンカンと歩く他ない

その音を頭に浮かべ
月の落ちた川辺をひたひたと歩く

遠くに望む電波塔が紫色に光り
私は少し安堵した

なぜなら工業船の迫力に丸呑みされかけていたからである

船員達が何人も私の頭の中で橋を渡る
カンカン カンカン カンカン カンカン

少し先の出航に向かい
進める歩は粗々しく強固な音だ

のんびりと月夜を歩

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水平線まで行かなくたって

水平線まで行かなくたって

白い甲板には半袖を捲り上げたのあなたが立っている

揺らいだら危ないよ

と僕が言うと

小心者の貝殻さんって
白い歯を見せては僕の顔に微笑み
睨んだフリをした

勝手によそ様のヨットに乗ってはいけないよ

と言うと
臆病者の貝殻さんって
僕に呟き誰もいない沖を眺めていた

長くて少し茶色い髪が
時間の流れが一日のなかで最も穏やかな
昼食明けの時間の隙間で太陽と戯れている

部屋のなかより明るい髪

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雨と私と色の無い事情

雨と私と色の無い事情

冬の雨は嫌いだ。

私は【踏んだり蹴ったり】という言葉を
【冬のザーザー】とよんでいるくらい嫌いだ。

寒いうえに寒い。

透明なビニールの傘も、ボコボコと当たる雨粒に
文句のひとつも言いたいことだろう。

寒さと苛立ちのなかに住む私は、
必然的に目の前にそっと構えるコンビニエンスストアに吸い込まれていった。

店内はお昼時ということもあり、
人口密度が修学旅行生でごった返す東京タワーの
エレベー

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