水平線まで行かなくたって
白い甲板には半袖を捲り上げたのあなたが立っている
揺らいだら危ないよ
と僕が言うと
小心者の貝殻さんって
白い歯を見せては僕の顔に微笑み
睨んだフリをした
勝手によそ様のヨットに乗ってはいけないよ
と言うと
臆病者の貝殻さんって
僕に呟き誰もいない沖を眺めていた
長くて少し茶色い髪が
時間の流れが一日のなかで最も穏やかな
昼食明けの時間の隙間で太陽と戯れている
部屋のなかより明るい髪色は
風に靡くたび
僕を風ごと外に連れ出してくれる
休日だって部屋の中で鉛筆とノートに翻弄されている
僕にとったら
あなたは行刺のコンパスかもしれない
硬い部屋の中で
たまに窓から顔を出すだけの僕は
あなたからみたら
貝の様子見だったんだ
ヨットが帆を張るところが観たいかも
あなたがポツリと零した想いが
僕の今の行き先
家を抜け
電柱を避け
海辺に白いヨットを寄せて
大きく白い帆を威風に張りあげる
甲板に立ったあなたの後ろ髪が
水平線を観てるのを
私は一速ずつ足音を上げ舵をとりながら見つめた
夕陽が顔を出す頃にあなたが
うちに帰らなきゃと
夕飯の心配をすることが
私の密かな喜びなら幸いだ
帰る場所が二人そろった貝殻のなかなんて
窮屈だからもうイヤよ
とあなたが笑い睨んで言うのが
瞼の裏にぼんやり浮かんだ