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本野/物書き教員
2023年12月27日 16:15
お酒を飲みすぎてしまったのだろうか。気づいたら薄暗い部屋の中。見慣れているような全く知らないような。ここはどこだろう。・・・あれ?隣にはポールダンスをしていた彼女が座っていた。上から不敵な笑みで僕の顔を覗き込んでいる。「うわ!」僕は、思わず跳ね起きて彼女を正面からまじまじと見つめた。月の光に照らされ、発光するうなじ。顎下で切りそろえられた黒髪。微笑みをたたえる血が透けたように真っ赤なくち
2023年12月27日 16:13
恐る恐る扉を開けてみた。薄暗い廊下が続いて、奥からぼんやりとした光と、何やら賑やかな音楽が漏れ出している。扉のわりに中は意外と広いらしい。「へっぴり腰しとらんで早よ進みィや。怪しい店とかちゃうから。」とんと背中を押されて恐る恐る歩き出した。どんどん光と音が近づいてくる。行ったことはないが、クラブのようなところのようだ。突き当りを曲がると、そこには嘘みたいに人でにぎわっていた。「いらっしゃ~
2023年12月27日 16:11
冴えない毎日。灰色の日々。僕の人生、一言でいうとそんな感じ。受験は失敗し、滑り止めの大学にやっと入った。就職でも好きでもない仕事に就いた。会社行って寝て会社行って・・・。同じことの繰り返し。つまらない。彼女もいない。親にも孫の顔を見るのは諦められている。こんな状況なのに動き出せない自分のことも嫌だ。 *** 「何か趣味とかあるん?」仕事終わりに飲んだ帰り、唐突に上司から尋ねられた。「
2023年12月26日 17:53
手紙を恐る恐る開いた。『猫には九つの命があると言われています。あなたなら、その命をどう使うかしら?私は、教師として生きたい。生まれ変わったのは、これで九回目。これまで綴ったのは私の人生です。よくここまで読んでくれましたね。何度もあると分かりきった命。自分のために精一杯生きる動機なんてなくて、目的もなく自分の命を渡し続けているように感じていました。でも、私はいつしか選択していたのです。教
2023年12月26日 17:49
憧れの大人がいた。忘れもしない。中学校三年生の時の担任の先生。私は、家庭環境があまり良くなかった。学校も休みがち。積極的に生きる意味を見出せず、毎日がどうでもよかった。「どうせ私なんか、誰からも必要とされていない。」なんて思い、自分の殻の中に閉じこもる日々。そんなある日、先生から『うちへいらっしゃい。』と手紙が届いた。あんまり会ったことも無かったけれど、まあ、暇だし行ってみてもいいかな、
2023年12月26日 17:44
三回目は、教師。知識は生きる術だから。子どもたちがお腹を空かせず、理不尽な目に逢わずに生きていけるように。「マオ先生。黒雲母は薄くて爪で剝がせるんですよ。透かして見ると、先生の目みたいにきらきらしてて綺麗でしょう?」はにかみながら言う子。遥かに長く生きているのに彼らの持つ感性には敵わないなと思う。教えているようで教えられる日々。私は、よく彼らへ本を読み聞かせた。言葉は世界だ。新しい言葉を
2023年12月26日 17:41
二回目は、旅人。世界中を飛び回り、様々なものを目に映す。コバルトブルーの海。赤青黄、何色でもいそうな魚たち。小鳥は囀り、蝶が舞う。世界には壁も天井もなく、底抜けに美しいのだと知った。「マオ、スモモの実やるよ。真っ赤に熟れて食べ頃だ。甘酸っぱくて美味しいんだぜ。」そう言ってにかっと笑う彼。いつの間にか行動を共にするようになった。私の手を引いて、様々な場所に連れて行ってくれる。「俺ァち
2023年12月26日 17:37
『猫には九つの命があると言われています。あなたなら、その命をどう使うかしら?私は―。』*** 一回目は、退屈な毎日。あくびが止まらないぐらい、狭い部屋で同じことの繰り返し。どうせ九つもある命だ。時間を無駄にしてもかまわない。唯一、幸せだったのは、貴方が優しい声で、「マオ」と名前を呼んでくれたこと。「ねえマオ、僕はもうすぐ死んでしまうよ。」ベッドの上で月を眺めながら彼が呟く。