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vol.570「ビジネスの覇道と王道。あなたはどちらの道を行く?」(2024年12月20日配信)


自動車業界再編とシェア戦略

ホンダと日産が経営統合することになりましたね。新聞は、両社に三菱を合わせると台数で世界ランキング3位になると報じています。ランキングやシェアは、戦略上重要な要素です。多くの経営者は常に売上やシェアを上げることを念頭において経営をしてきました。

シェアNo.1の重要性と「覇道」戦略

これは量(規模)を追求する経営です。量を追求する経営を、ビジネスでは「覇道」と呼びます。良質な商品を、コストを抑えて開発・生産・販売します。売れ筋商品を売る営業マンの数や宣伝量など大量に資本投下する物量作戦で市場を制圧し、弱き競争相手を追い出す戦略です。

企業が市場シェアを取るのは、とても重要です。特にナンバー1になりますと、ナンバー2以下に比べて多数のメリットがあります。

第1に「ナンバー1の会社の商品なら間違いないだろう」と、それだけで信用されます。

第2に、日本一高い山の富士山は記憶されますが2位の山が記憶されないように、ナンバー1商品は記憶されます。すると「〇〇と言えばアレ!」のように思い出してもらえます。

第3に、コストメリットが生じ、下位の企業に比べて同質の商品をより低価格で提供できます。第4に、不況に強くなります。不況時、市場の買い控えの影響を強く受けるのは、固定客の少ない下位企業の商品です。ナンバー1企業への影響は比較的軽微で済みます。つまり、売れる確率が高くなり、競争に負けにくくなるのです。

シェア戦略の転換点

ゆえに経営者はナンバー1を目指すのですが理論的にシェアを42%以上取ると圧倒的な状態になります。下位企業がそれを追いかけてきても崩せません。そして73%以上になると、寡占状態と言われます。他社がひっくり返すことなど、不可能という水準です。

が、ここに1つリスクがあります。73%以上取ってしまうと、口うるさい客や要求が面倒な客にも対応せねばならないからです。このとき、他社にある程度の市場を持たせていたら、「申し訳ありませんが、当社では対応できかねます。どうぞあちらの商品をお買い求めください」とリスクを避けることもできます。よってまずは安定的に50%以上のシェア獲得を目指します。

「王道」への転換と質の追求

業界下位企業は市場を細分化し、「この分野ならナンバー1」と言える市場を作ります。ホンダであれば、バイクでは世界シェアナンバー1です。またN-BOXは、軽四輪の新車の販売台数で9年連続1位です。こうした安定した分野を築いたら、ここから先は戦略を切り替えていきます。それは「規模を追求する戦略=覇道」から王道と呼ばれる「質を追求する戦略=王道」への切り替えです。

「質の追求」とは、指標では「1人当たりの粗利益」や「1人当たりの営業利益」を上げる経営を意味します。もし、あなたの会社で、社員数を増やさずに粗利が120%増えたらいかがでしょうか?おそらく社員の賃金を大幅にアップしても利益は前年の倍以上は残るのではないかと思います。

では、どうしたら社員数を増やさずに、粗利を前期比120%も増やすことができるでしょう?それは客数を120%に増やすのではなく、客単価を120%に高めることで実現できます。客単価120%UPするにはいくつもの方法が考えられますが、お客様にその値段をつけても納得していただけるだけの商品とサービスの質の向上が必要です。

そのような質の向上を提案するためには、まず何よりもお客様が今何に困っているのか、どんなことを望んでいるのかをしっかり把握しなければいけません。そのためにお客様の話を聴くのはもちろんですが、既存商品をどのように使っているのか、現地現物でじっくりと観察し、もっとスピードUPできることや作業がラクになる課題にどこよりも先に気づく必要があります。

そして、それらを解消するために商品の改良はもちろん、組み合わせて使って頂いた方が良い商品があればそれらをセットにして提案します。必要に応じて商品の購入前後のサービスを付加します。すると客単価は120%UPします。が、お客様が「単価が120%UPしても安い、お得感満載!」と感じるほどの費用対効果があれば単価アップがUPしても売れるのです。

つまり、単価を120%UPしても、「あれは良い買い物だった。貴方と出会えてよかった」と喜んでくれるお客様を増やしていく。そして、それを一緒に喜ぶ協力企業を増やしていく。これが1人当たりの粗利益を上げる行為なのです。

お客様の話を徹底的に聴くことで信頼関係を構築し、お客様に満足していただけるカスタマイズした提案をするビジネスを「王道」と言います。このようなソリューション営業を行うと。お客様は「あなたに巡り会えてよかった」と喜びます。そして、その言葉に社員は強いやりがいを感じます。さらに、「また、あなたから買いたい」と、リピートオーダーを得ることができます。

自動車業界でいえば、2019年の統計でトヨタの連結の一人当たり純利益は概ね600万です。これに対しフェラーリは1,200万円です。実に2倍近く稼いでいます。これだけ稼げるのは1台あたりの売価が概算でトヨタの250万円に対し、フェラーリは4,000万円近いからです。単価が高い分、それだけ利益も大きいわけです。どちらの社員の方がより高い賃金を得ているのか分かりますよね。

覇道と王道の使い分け

ここまでビジネスの覇道と王道について話してきました。覇道と王道の語源は、中国の故事です。そこにはこうあります。「人間の信用をあてにせず、力と偽りで人民を支配することを覇道と呼びます。思いやりと道徳心で世を治めることを王道と呼び、王道においては、人民はその徳を慕って心服するので、末長い繁栄と安定をもたらします。が、覇道においては民衆からの支持を失い、いずれは滅びる運命にあります」

ビジネスにおいては、覇道も王道もどちらも必要ですが、同時に両方必要なのではなく、企業の成長段階で今、どちらを取るべきかが変わります。2025年、貴社にはどちらの道が必要でしょうか?顧客ニーズはもちろん、社員のやりがいや幸福感も考慮してぶれない戦略軸を定めてくださいね。

実践に役立つ動画の解説

このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。

Q1: 新規参入時のマーケット選択について、既に強者が存在する市場での戦い方をどう考えればよいでしょうか?

中島:市場に既に強者が大きなシェアを持っている場合は、新しい市場でシェアを確保することを考えた方が良いのでしょうか。

酒井:その強者がどれぐらいのシェアを取っているかによるんですけれど、少なくとも1社で4割以上持たれていると、逆転は難しいです。歴史的に見ても、それが全くなかったわけではないですが、極めて稀ですね。

それは、よほど先行しているシェアの高い企業を上回る品質の商品を出したときに限られます。そこまでの商品力がないと難しい。営業マンをたくさん育てて売り込んでも、同じような商品を持っているライバル企業と戦うことになります。

そうすると、持っている経営資源を活かして別のマーケットにアプローチする—競争しないところへ行くというのが最善の策です。そこで高いシェアを取る。そういった場所を、身の丈に合ったサイズで見つけることが重要なんです。

中島:マーケットについて非常に面白いのは、ニーズが大きければいいわけではなくて、自社が40%から50%取れるレベルのマーケットを探すということですね。

酒井:はい、その通りです。例えば、これは昔ビジネススクールの問題にあった架空の例なんですが、電磁波の影響を受けないシールを開発したベンチャー企業の話があります。携帯電話市場全体をターゲットにしようとした人がいましたが、そんな大きな市場は中小企業で供給できるはずがない。大手も参入してくるでしょう。

むしろ、心臓ペースメーカーをつけている方の安全のために使うというような、小さいけれど確実なニーズのある市場に特化する。購入ルートも医療系に限定される。市場は小さくても、最初に入れば競合も少なく、自社の強みを活かせる市場となります。

Q2: 覇道から王道への切り替えのタイミングについて、具体的にどのような兆候があれば検討すべきでしょうか?

酒井:覇道から王道への切り替えは、ある程度シェアの伸びが止まってしまって、これからシェアを上げようとすると、値引きや頻繁な営業訪問でしか対応できなくなってくるようなタイミングですね。

特に値段を下げるというのは危険です。お客さんも商品に対して使い慣れてきて、もっと違った使い方をしたいと考え始める。むしろ、この商品にもっとカスタマイズが欲しいとか、自分に使いやすくするためのアレンジが欲しいという要望が出てくる。商品に対する要望が非常に広がってくるタイミングなんです。

ところが営業マンは、シェアを目指して値引きの提案ばかりする。あるいは何度も顔を出すんですが、新しい情報を持っていかない。そうすると、お客さんからすれば「また来たの?面白くないから帰って」という話になる。お客さんのニーズと企業がやっていることがずれてくるんです。

営業マンは値引きや頻繁な訪問でも売れないと相当疲弊してきます。営業だけでなく、会社全体が疲弊する。現場が苦しい思いをして、この路線での商売に限界を感じてきたら、切り替えを考えるべきタイミングです。

中島:シェアがだんだん目的化するフェーズなんですね。それまでは、お客様に喜んでいただいて、ユーザーが増えてきて、結果としてシェアが増えていた。それが徐々に目標化していってしまうと。

酒井:そうです。シェアというのはあくまで手段であって目的ではないはずなんです。本来はお客さんに喜んでもらうことが一番の目的なはずなのに、それを置き去りにして、とにかく1台でも多く売ろうとする。そうなると、営業マンも自分が何のために働いているのかわからなくなってしまう。

Q3: 覇道から王道へ成功裏に移行した具体例を教えていただけますか?

酒井:例えば、私のお客さんに労働金庫さんがあります。労働金庫は労働組合の方々に自動車ローンや住宅ローンを提供している金融機関です。住宅ローンが主力商品なので、地方銀行と激しく市場を争っていました。金利競争などで、なかなか収益を上げることが難しい。

そこで、地銀との競争を避け、労働組合員市場に特化することにしました。そのために、労働組合とのコミュニケーション量を増やし、組合活動そのものを応援する方向に切り替えたんです。

具体的には、金融の勉強会を開催したり、組合員同士が交流できる場を提供したり。地方の小規模な労働組合10社くらいが集まってスキーに行くようなイベントを企画する。そういう場で自然な形で商品のPRをすると、「相談するなら労働金庫」と選んでもらえる。一緒に活動する仲間として信頼関係を築いていったんです。

中島:顧客との関係づくりが、単なる商談ではなく、もっとラフな形でニーズを理解する機会にもなっているということですね。

酒井:はい。そこに焦点を当てると、職員の皆さんもより生き生きと仕事ができる。数字だけを追いかけて「あと何件」という営業から解放されて、お客さんとの関係づくりに意味を見出せる。そこにやりがいが生まれ、新しいアイディアも出てくる。それが他の金融機関には真似できない独自の価値になっていく。

これこそが「王道」と呼ばれるものだと思います。お客さんとの好ましい関係ができて、従業員も無理な気持ちやつらい思いをするのではなく、楽しくお客さんに接しながら、売上や利益が上がっていく—そういうビジネスの形を目指すべきですね。


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