テツガクの小部屋25 アリストテレス③
・可能態と現実態
アリストテレスは運動を可能態と現実態ないしは完全現実態という概念を導入して説明した。これらの概念を可能ならしめているものも結局は、事物は形相と質料の結合体であるとする彼の構想である。
すなわち可能態とはいまだ形相が潜在的であって、その実を発揮していない状態をいい、現実態とは形相が自らを発揮している段階をいう。形相が自己を完全に発揮して目標に到達した段階が、完全現実態である。
例えば種子は可能的には木であるが、現実的には木でない。木の形相がやがて自己を発揮しだすことによって、若木となり、成木となる。その形相を最も完全に実現したとき、すなわち大木になったとき、それはその完全現実態に到達したのである。しかし大木もやがてそこから形相が立ち去り、可能態に戻っていく、すなわち朽ち果てる。
このようにアリストテレスは質料における形相の実現の程度によって、事物の運動変化を説明した。運動とは「可能的なものの可能的である限りにおける完全現実態である」というのが彼の運動の定義である。形相を超越的存在としたプラトンのなし能わなかったところである。
参考文献『西洋哲学史―理性の運命と可能性―』岡崎文明ほか 昭和堂