
宮城気仙沼市と高知県黒潮町の事例、そしてデザインから防災について考える! 社会課題研究所「シャカケン!」Vol.4の感想
近年、災害リスクの高まりを背景に、防災対策は単なる行政の仕事に留まらず、住民一人ひとりの意識や地域全体の連携、さらには産業や観光といった他分野との融合が求められている。
気仙沼市で取り組まれている社会課題研究所(シャカケン)のVol.4では、気仙沼市や黒潮町といった地域に根ざす防災の現場から、先進的な取り組みとその課題が浮き彫りにされている。
各現場の担当者たちが語る「防災は一人一人の意識が重要」という基本理念を軸に、行政の施策、企業の取り組み、さらにはデザインの力まで、多角的に防災の未来が描かれている。
気仙沼市のみならず、東北の沿岸部を中心に東日本大震災を契機として防災に対する意識の高まり、また次の災害に向けての数々の備えが進められている。そうした中、岩手県の大船渡市では2025年2月19日から山火事という新たな災害が発生した。
山火事は延焼を拡大し、鎮圧のめどが未だ立っていない。防災というとどうしても地震や津波、台風といった自然災害がイメージされがちであるが、山火事も災害に違いない。今回の一件は、そのことを多くの人々に印象付けているのでなかろうか。
シャカケンのVol.4が開催されたのは2025年1月26日と一か月以上前になるが、現在進行形で大規模な災害が発生している今だからこそ、改めて内容を振り返っておきたい。ちなみに前回のVol.3は以下の通りである。
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気仙沼市の先進的防災体制~危機管理監が語る防災の鍵~
気仙沼市危機管理監・危機管理課長の髙橋義宏氏は、防災において「正しい知識をいかに住民に浸透させるか」が鍵だと語る。無意識の危機軽視(正常性バイアス)や危機意識の麻痺によって、知識を持っていても行動に移せない人々の様子が、過去の災害検証からも明らかとなっている。
気仙沼市では防災ハンドブックの配布、津波ハザードマップの活用、そして地域防災リーダーの育成など、知識の普及と訓練の強化に努めている。現場では、防災士や宮城県防災指導員、地域防災リーダーといった人材育成が進められ、防災活動が広がりを見せている。
結果の一つとして、自主防災組織の整備・充実が図られつつあり、たとえば自主防災組織の組織率は、平成26年時点の43%から令和6年には75%にまで向上し、津波総合防災訓練などの実施も積極的に行われている。
さらに気仙沼市内では「けせんぬま防災ベース(KBB)」が立ち上げられ、市民や企業が連携して防災×備蓄食品、防災×健康など、多様な防災活動の掛け合わせが進められているという。これにより、「災害死ゼロ」を目指す防災まちづくりの未来が見えてきている。
高知県黒潮町の産業と防災の融合
株式会社黒潮町缶詰製作所の取締役である友永公生氏は、「We Can Project」などについて語った。東日本大震災を目の当たりにしたこと、黒潮町が災害時に甚大な被害を受ける可能性が示唆されたことから、黒潮町では防災対策の見直しが行われ、また併せて地域の産業振興にも取り組む独自のプロジェクトが動き出した。
震災直後、町長自ら現地を視察し、黒潮町と陸前高田市の土地利用の共通点を踏まえた上で、想定津波高を従来の8mから20mに引き上げるなど、政府の新たな防災基準を反映しながら、それを凌駕する程の対策が講じられている。
住民たちの避難放棄のリスクや震災前の過疎化を踏まえ、黒潮町では犠牲者ゼロを目指す取り組みが急務とされ、避難道路の整備や津波避難タワーの建築が進められた。さらに、町が自ら会社を立ち上げた。その背景には、自然との共存や人口減少という課題に対し、防災を起点とした産業創出の可能性を模索した人々の想いがある。
特に、缶詰という地元資源を活用した新たな産業モデルは、災害時の食の課題を解決するだけでなく、地域経済の活性化にも寄与することが期待される。町が進める「経済循環備蓄」は、従来の備蓄から一歩進んだ、新たな防災の形として注目されている。
黒潮町~観光と防災の新たな試み~
また、一般社団法人黒潮町観光ネットワークの事務局長、髙石麻子氏は、防災ツーリズムという新たな観光形態を提唱している。黒潮町では、砂浜美術館や各種体験プログラムを通じ、観光と防災の融合を図る取り組みが進められている。
防災ツーリズムとは、自然が持つ恵みと災いの二面性を伝えると同時に、防災学習プログラムや地域実感プログラムを通して、観光客自身が防災の知識や意識を深める仕組みである。観光参加者は、町内での滞在を通じて、避難所の見学や津波非難タワーの体験を行い、さらには防災サポーターとして有事の際の支援にもつながる。
こうした取り組みは、観光資源としての魅力を高めるだけでなく、地域の防災体制の強化にも寄与する。住民と外部の防災サポーターとの連携が、町全体の安心・安全な未来への礎となるだろう。
防災領域においてデザインがもたらす温かな未来
issue+designの理事である白木彩智氏は、震災とデザインの融合をテーマに、避難所での課題解決に向けたワークショップやコンペティションを実施した話をしている。
また、震災時の避難所における課題について示唆に富んだ話を展開した。避難所では、清潔な水の確保やトイレの混雑、助け合いの動機付けなど、数多くの課題が浮上する。
これに対して、従来のアイデアをブラッシュアップした「できますゼッケン」など、現場で役立つデザイン提案が実際に投入され、避難訓練など様々な場面で活用されている。東日本大震災においても、このデザインによって多くの人々を助けることに成功した。
さらに、行政が発行するハザードマップやウェブ版「ココクル」など、情報発信の手法におけるデザインについても触れ、デザインの力が防災現場での情報伝達や住民の意識改革に大きく貢献している様子が語られた。
防災とデザインを掛け合わせたこうした取り組みは、単に美しいデザインを追求するのではなく、実際に災害時に人々の命を守るための具体策として、将来災害に見舞われる多くの人々を救う未来を垣間見られた内容であった。
シャカケン Vol.4を通じて
シャカケン Vol.4を通じて、行政、企業、観光、デザインといった異なる分野が連携し、防災の意識と体制を強化していくという共通の目標に向かって様々な取り組みが行われている現状を知られている。
一方で、行政と企業との連携不足や、少子高齢化による担い手の減少、活動の継続性や維持といった様々な課題の存在も垣間見えた。たとえば気仙沼市では、様々な防災の取り組みが進んでいる一方で、防災体制の達成割合は約50%程度とされる。
組織自体は整ってきている一方で、少子高齢化によって担い手が減っていく中、防災に関する取り組みの一層の活性化には引き続き人材育成を急ぐ必要性が語られた。黒潮町においても、地域コミュニティの力や企業の一層の積極的な関与が、今後の防災活動の持続可能性にとって重要な鍵を握ることは間違いない。
昨今は、各現場で試行錯誤を重ねながら地域全体で防災意識を高め、行政と民間、さらにはデザインや観光といった分野が連携することで、未来の防災モデルが確立されつつある。
これらの取り組みは、災害時の被害を最小限に留めるだけでなく、住民の日常生活の質を高め、地域経済の活性化にも寄与する可能性を秘めている。シャカケン Vol.4は、そんな多様な現場の実践と課題を克明に伝え、今後の防災の方向性を示す貴重な機会だった
防災は、単に「備える」だけではなく、「学び」「連携し」「実践する」プロセスの積み重ねである。各地域の先進事例に学び、今後も防災意識の堤防を高く築いていくことが、未来における安心・安全な社会を実現するための鍵となる。そう強く感じられた時間だった。
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