『予告された殺人の記録』(1981) ガブリエル・ガルシア=マルケス
コロンビアの作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの中編小説、『予告された殺人の記録』を読みました。なんだか推理小説っぽいタイトル。
“自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。(8ページ)”
こんな一文から始まります。
殺される…?ってことは、犯人は誰かな…?
なんて、頭を働かせる人もいるかも知れません。
しかし!なんと20ページ目くらいであっさりと犯人は分かってしまうんです。推理小説ではないのか!!
残り120ページくらい、この殺人についての色々な人たちの証言が永遠と続きます。
ナサールとはどんな人だったのか。なぜ殺されなくてはならなかったのか。どうして未然に防ぐことが出来なかったのか。
まあそれだけではなくて、合間合間に興味深い別次元(?)のエピソードも入っているのですが...。それでも、やはり物語の本流は、このナサール殺害に関する色々な証言ということになります。
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ガルシア=マルケスという作家の凄さのひとつは「語り」であると言われています。
この小説では、ナサールの親友でもあり、その彼を殺した人物の親戚でもある「わたし」が語り手です。
「わたし」が、様々な人物からナサールの死に関する証言を集めていく中で、読者もその事件の全貌が掴めてくるのですが、同時に不自然なこともいくつか浮かび上がってきます。
たとえばその殺人が、ナサール本人以外のほとんどの町の人には、あらかじめ「予告された殺人」だったということ。犯人はナサールを殺す前から「ナサールを始末する」とありとあらゆる周囲の人物に言いふらしていました。
にも関わらず、それは止められることなく実行されてしまうのです。なぜか。
それを考えるという点では、ある意味推理小説的でもあるのかも知れません。しかしまずは、とにかく語りの中に没入させられてしまう感覚を楽しむのがおすすめです。
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挫折ポイントをもし挙げるとするなら、人物名の複雑さと、その多さだけかなという感じ。でも、あまりしっかり覚えようとしないでも楽しめると思います。140ページほどの中編でこれくらい揺さぶられるのはすごいです。
ガルシア=マルケス本人も「自身の最高傑作である」と言っているんだとか。でも納得。
世界的な評価からすると『百年の孤独』が代表作とされていますが、そっちは中々分厚くて読むのに体力が必要かも知れません。
「分厚い本はちょっと…」っていう人は、こちらの『予告された殺人の記録』から入るのがおすすめです!是非!