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電車内のすれ違い3

今日も、アーシュラ・K・ル=グウィン『文体の舵をとれ』を読んで、文章の練習。


〈2〉遠隔型の語り手
〈壁に止まったハエ〉のPOV(point of view)
人々の様子は客観的に表現して良いが、心理的内面には一切立ち入らない。

蒸し暑い梅雨の最中の出来事だった。都市部を走る電車は、梅雨の晴れ間の昼下がりという時間を迎えており、冷房のよくきいた車内は、まさに天国である。人々はまだ慣れない暑さに疲れていて、座っている客も、立っている客も、冷めたい風を受けてどこか放心した態である。
ある駅で一人の女が、ドアが閉まるアナウンスの最中に車内に駆け込んきた。大きなトートバッグを肩にかけ、走ってきたのだろう、赤い顔をしてふうふうと荒い息をしている。明るい色に染めた髪の毛、ヒールのあるパンプスや、服装から、まだ若いと知れた。続いて、今度は本当にドアが閉まる直前に、女子高校生が走って電車に飛び乗った。女と女子高校生は、体当たりでもするかように、ぶつかりそうになった。女子高校生は、チラリと女を見て、走り込んだドアの反対側に立つと、スマホをカバンから取り出して、せわしく指を動かし始める。ぶつかりそうになった女は、女子高校生の方に一瞬目をやったが、すぐに何でもなかったかのように、窓の外へと目を向けた。電車が発車して少し経つと、女の頭がこっくりこっくりと揺れ始め、次の瞬間、女のトートバッグが肩から滑り落ち、大きな音を立てて床にその中身が飛び出した。女はハッと目覚めて、慌てて細々した荷物をかき集め、トートバッグに入れ始めたが、電車は揺れる上、周りには人が立っているため、中々思うように拾えない。次の停車駅も近づいている。女はいよいよ焦って、躍起になって荷物の回収をしているが、周りの乗客たちは手伝うこともしないし、ただ見ているか、気付かぬふりをしている。電車が減速し、次の駅に到着する頃、女は荷物をやっとのことで拾い終わった。電車が停車し、ドアが開く。次々と乗客が降りていく中、一人の中年を過ぎた男が腰をかかめ、床に落ちたままだったペンケースを拾い女に差し出した。女は怪訝な顔で、ペンケースと男を見ていたが、自分のものとわかったのか、頭を何度も下げて感謝し、男からペンケースを受け取った。男は女にひとつ頷くと電車をおりていった。


毎日読んでくださっているかたには、なんだか申し訳ないけども、毎日同じ話です。。。

あと2回は続きます。もしかしたら、4回かも。。。一日で全部書けるといいけど、余裕がなくて、一日1個。

それにしても、違う視点でみるだけで、物語の書き方ってこんなに意識していないと、成り立たないのですね。違うふうな物語として受け取って貰えたら最高ではあるけど、力量不足。もうすわけない!


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