言われるがままに我儘に僕はキムチだけしか食べられない
大学生の頃、
特に夏休みは地元の友達と毎日のように会っては、
恋の話や何か面白いことをするのが大好きだった。
何かみんなでゲームをしたならば、
必ず最下位の人には罰ゲームが用意される。
その日は男6人でボーリングに行って、
合計点数を競い合うことになっていた。
場内では、B'zの曲が流れていて、
ちょっと口ずさみながら場内シューズを履き、
負けないために、指の感触が心地良いボールを探す。
私はボーリングは好きなのだが、
スコアは最高で150点後半、平均は130点くらい。
何の笑いも起こらないぐらい、普通。
ゲームがスタートした。
その日は調子が悪かったのか、
数日前、当時好きだった女の子にフラれたことを引きずっていたのか、
1ゲーム100点もいかないことが多く、最下位になってしまった。
その日の罰ゲームは、
「 牛丼屋に入り、サイドメニューだけ食べて戻ってくること 」。
いつものボーリングなら、
ジュースやアイスをおごるとか、
それぐらいの罰ゲームであったが、
その日は夏休み企画と位置づけ、
罰ゲームの質が変な方向にいってしまっていた。
「 ほんまにやるん??」
と、一応みんなに確認したが、
「 えっ、負けたんやんね〜 」
と、この失恋男に容赦はしない感じ。
覚悟を決めて、
ボーリング場から少し離れた牛丼屋に向かう。
友達みんなは外から店内を覗き、
私の行動を見守るという。
ドアを開けて1人で戦場へと向かう。
「 いらっしゃいませ、空いてるお席へどうぞ! 」
と、カウンターの中央にいた、
アルバイトであろう男の店員が私に声をかけてくれる。
その頃はまだ自動販売機でチケットを買うシステムではなかったので、
カウンターの前にいる店員さんが注文を聞いてくれる。
私は友達に見張られながら、
真面目に実行する。
まず、メニューをしっかり見て、
しばらくは悩んでいる様子を見せろという台本であった。
その台本通りに少し長めにメニューを見る。
そして、いよいよ注文。
「 あの、すいません! 」
「 はい ! 」
「 キムチ1つお願いします。注文は以上です! 」
「 えっ 」
「 キムチ、ここから取っていいですか? 」
と私はキムチなどが入っている小さい棚を開けようとする。
「 おっ、お客さん、他に注文はよろしいの・・・・」
と、呆然とするアルバイト店員。
「 宗教上、キムチしか食べられないんで。 」
「 キムチしかっ・・・・・・ あっ、じゃっ、どうぞ〜・・・ 」
店内では、他のお客さんも異変を感じ出していた。
外を見ると、
そのやり取りを見ている友達は爆笑している。
もちろん、店員さんや他のお客さんは、
私のミッションなど知らない。
私が女の子にフラれたことも知るわけがない。
だいぶ不思議がられている様子だったが、
一応、1品は注文しているので、
そのままにしておこうと店員さんは判断してくれた。
キムチを手にすることが出来たのだが、
店員さんへの申し訳なさと、友達にはウケている心地よさが混ざり合い、
複雑な気持ち。
少しピリ辛だったが、
10秒程でキムチを食べ終わり、
「 ご馳走様でした! 」とつぶやき、
すぐに席を立ち、会計へと進む。
レジを担当する人は別の店員だったので、
会計の紙を見て
「 えっ 」
と、思わず他の店員に確認にいく。
店員同士でボソボソ話す。
もちろん、会計の紙どおりの注文だったため、
そのまま会計が再開されるに決まっている。
待っている間、牛丼屋内が妙に静まりかえっていた。
その空気感を浴びながら、
「 キムチだけを食べにくることなんて、L.A.では今じゃ普通のことですよ 」
といった表情を醸し出しながら、会計を待った。
会計後、
店員さんは、ちょっと笑いそうになっている顔を堪えながら、
「 ありがとうございました!!」
と、この変なお客を送り出してくれた。
本当に申し訳ないと思った。
外へ出ると友達みんなが、
「 嫌なこと忘れられたやろ〜!! 」
「 それだけできたら、大丈夫や!!」
と、
私を励ますためにやったかのように言う。
「 たまたまやろ、コノヤロ〜〜 」
と思いながらも、
こんなしょーもないことができる自分や、
笑ってくれる友達がいることに、
「 大丈夫かも〜 」
と、吹っ切れた感じがした。
あれから大人になった。
色んな辛さも味わってきた。
もう落ち着いている。
ちゃんと、
キムチとどんぶりのセットを注文することが出来ている。