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耽美主義文学の入口「ナイチンゲールとばら」~オスカー・ワイルド(改訂、ネタバレ有)


Bitter, bitter was the pain,
and wilder and wilder grew her song,
for she sang
of the Love that is perfected by Death,
of the Love that dies not in the tomb.

~The Nightingale and the Rose Oscar Wilde(1888)


オスカー・ワイルドは、「耽美派」の筆頭として挙げられる作家です。
 
耽美(唯美)主義とは、19世紀後半に西洋で発達した芸術思潮の一つで、その時代の主流であった写実主義に反して「美しさ」に最高の価値を置くものです。
 
それは「美に耽(ふけ)る」の文字通り、常識にとらわれず美しさをとことん追求する姿勢ですので、一線を超えて非道徳的になったり残酷になることが多く、そこが魅力でもあります。

その特徴が顕著な「サロメ」などで知られるワイルドですが、「幸福な王子」(1888)をはじめとする童話集も残しています。

その中に収められた「ナイチンゲールとばら」は、ワイルドの美学が濃縮された、悲しくロマンチックな作品です。

一人の青年が、ある令嬢に恋をします。
令嬢は青年に言います。 「赤いばら」を持ってきてくれたなら、今度の舞踏会で一緒に踊ってあげてもいい、と。
 
青年の部屋の窓の下にはばらの木があります。
しかし、それは枯れてしまっています。
赤いばらなどどこにもない、と青年は嘆きます。
 
その姿を見ていた一羽のナイチンゲールがいました。
 
ナイチンゲールはそれまで、恋の喜びの歌ばかりを歌ってきました。
しかし、本当の恋をする人の姿を見るのは初めてなのでした。
 
「恋は喜びばかりだと思って私はずっと歌ってきた。なのにこの人は恋に苦しんでいる。」、とナイチンゲールは驚きます。
 
そして青年の苦しみを消して恋をかなえるため、赤いバラを咲かす決意をします。しかしそのために、ナイチンゲールは自分の血を枯れた木に捧げなければならないことを知ります。
 
恋は命より尊いものなのだから・・・
 
月が輝く夜、ナイチンゲールは枯れたばらの木へ飛んでいきます。
そして、ばらの棘で心臓を貫きます。
 
その時、ナイチンゲールは狂ったような歌を歌います。
それは、「死によって完成される恋、墓の中でも絶えることのない『本当の恋』」を歌った歌なのでした。

この物語では「美しいものとそれに反するもの」、さらには、単なる「きれい(prettiness)」と「美(beauty)」の決定的な違いが鮮やかに描き出されています。ですので、ワイルド文学の本質に触れる上で分かりやすい作品と言えます。

また、「ドリアン・グレイの肖像」(1890)などでも言えることですが、表向きのスキャンダラスなイメージとは異なり、彼が実は真の「道徳」と、とことん真摯に向き合った作家だったことが垣間見られる掌編でもあります。



オスカー・ワイルド(1854-1900~アイルランド・詩人、作家、劇作家)

ヴィクトリア朝時代を代表するイギリス作家の一人。
耽美的・退廃的だった19世紀末を体現した彼の作品や生き方は、日本を含め世界中の作家たちに影響を与えた


2024.9.5
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福田尚弘
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