2024年12月25日 「恐怖を失った男」感想 ネタバレあり
早川書房、M.W.クレイヴンの「恐怖を失った男」をAudibleで読了したので(聴了した?)ので、その感想です。
続々Audible化されるM.W.クレイヴン
お気に入りの作家については、Audible内の検索窓で定期的に調べるようにしています。
新しい作品が、Audible化されていることがあるからです。
ワシントン・ポーシリーズとアンソニー・ホロヴィッツシリーズのことはよく調べます。
新作が続々出ているのは知っていますし、どちらも人気があるようなので、
気長に待てば、Audible化される可能性が高いからです。
そうやって、「M.W.クレイヴン」と、検索したところ、「恐怖を失った男」か出てきました。
やはり、私の推理は正しかったようです。
人気のある作家の作品は、続々とAudible化されていくのです。
さて、今回の「恐怖を失った男」は、
ミステリではなくアクション小説ということですが、
躊躇うことなく、ライブラリに加えます。
ジャンルは違いますが、ワシントン・ポーシリーズも段々とアクション小説要素も増えてきましたし、きっと楽しめるでしょう。
それにワシントン・ポーシリーズの訳者あとがきのどこかで、この本に触れられていたはずで、タイトルには既視感がありました。
しかも、読み手はワシントン・ポーシリーズとの藤井剛さんです。
これは嬉しい!
全く共感できない主人公
さて、小説や漫画、アニメの主人公は、大きく分けて2つのタイプがあります。
読み手が共感できるタイプの主人公か、
読み手が全く共感できないタイプの主人公かということです。
今回の「恐怖を失った男」の主人公、ベンジャミン(ベン)・ケーニグは、完全に後者です。
共感できる部分がゼロではないですが、
彼の考えること、やることは、ほとんど共感できないし、予想できません。
それも当然と言えば当然で、彼の肩書きは「連邦保安官局特殊作戦群(SOG)の元指揮官」であり、数々の組織(ブルーシールズ、英国陸軍などなど)でトレーニングを受けてきた精鋭な上、
とある特殊な事情を抱えているからです。
とある特殊な事情というのは、「頭の怪我から恐怖を感じなくなり、連邦保安官を退官した」という事情です!
もうこの時点で、非日常の中の非日常ですね!
そう、ベン・ケーニグは、完璧に非日常の男です。
後付けにはなりますが、クリスマスシーズン、ホリデーシーズンに
日常を忘れて、聞くにはとても良い作品でした。
ベン・ケーニグは、悪人ではありません。
彼なりの正義感や筋の通し方はちゃんとあります。
しかし、「特殊な事情」もあり、
このコンプライアンスに厳しい時代では考えられないような言動を取ります。
それがこの本のフックでもあります。
暴力描写多数あり
そうそう先に書いておくべきだったかもしれません。
「恐怖を失った男」はかなり激しい暴力描写(流血・ゴア)があります。
暴力描写がお嫌いな方には、読み進める、聞き進めるのは厳しいかもしれません。
ベン以外の登場人物はよく死にますし、
ベンもよく負傷をします。
執拗に描写されるわけではないですが、即物的に、死や暴力が描写されるので、苦手な人はいるでしょう。
主人公の暴力性がどうしても受け入れられないと言う人もいるだろう、と感じます。
ワシントン・ポーの最初の作品も、殺人方法や動機にまつわる箇所には、そういう記述が多少ありましたが、その比ではないです。
M.W.クレイヴンの著者近影を見ると、スキンヘッドの大きなおじさんです。
顔はコワモテで腕にはタトゥーもしっかり入っています。人を外見で判断するのはよくありませんが、M.W.クレイヴンも武闘派なのは間違いなさそうです。
(英語のWikipediaをみたら、12年半くらいの軍歴があるようです。)
舞台はアメリカ合衆国、テキサス
今回の舞台は、M.W.クレイヴンのふるさと、英国ではなく、アメリカ合衆国です。
それも、テキサスが舞台です。
ワシントン・ポーが舞台としているイギリスとはまた違う土地の面白さがあります。
取材のために、アメリカに行ったのでしょうか?
それとも、これまでの経験からでしょうか。
主人公がどのダイナーにいっても、
ハンバーガーとシェイクを頼むのも著者の経験に基づくものかもしれません。
M.W.クレイヴンが描くアメリカ合衆国はなかなか興味深いです。
私もダイナーに座って、ハンバーガーとシェイクの食事を楽しんでみたいと感じました。
うんちくが好きで失神が多発する40代男
ベン・ケーニグは、異例の経歴を持つ上に、
うんちくが好きな男として造形されています。
ですから、何を見ても、それについてのうんちくをつらつら頭に浮かべるのです。
比較的、切羽詰まっている中でもうんちくが流れ出すのには笑いました。
ワシントン・ポーシリーズの読者にはお馴染み、
バーで出される氷とナッツについている大腸菌のネタも出てきますので、
お楽しみに!
ベン・ケーニグが、非日常的なキャラクターすぎて、緊迫した場面でもあんまりハラハラはしません。
読者も「ベンは落ち着いているし、ここまでの経験と技術があるのだから、まあなんとかするだろう」とわりに呑気に、聴き進め(読み進め)ていくと、
想像以上に、攻撃され、失神します。
この手の小説の主人公にしては、
失神回数が多いキャラクターなのです。
しょっちゅう失神するわりに妙に自信満々だし、
どんな場面でもうんちくをたれるし、
もうすぐで40歳と自称しているのに、あまりに向こうみずで、
「この人どうなってるんだ…」と疑問が浮かぶのですが、
その度に、ベン・ケーニグというキャラクターの設定のうまさに,唸ることになります。
「頭の怪我から恐怖を感じなくなり…」というやつです。
小説の中ではこの件についても、科学的なもっともらしい説明がされていますので、詳細はそれを読んでいただきたいです。
そう!この設定があることで、ベンが読者からするとあり得ない言動もとっても、
なんとなく納得できてしまうのです。
これを思いついたM.W.クレイヴンはやっぱりエンターテイメント作家として一流です。
連邦保安官って?あと出てくる武器情報は正しいのか?
日本にはない役職、連邦保安官。
なかなかイメージがわかないので、ネットで調べてみましたが、
わかったようなわからないような…。
アメリカの警察官と保安官って何が違うの? | ハフポスト WORLD
また、小説内には沢山の武器とそのうんちくが出てきます。
あれらはどれくらい正しいのでしょう。
ミリタリーオタクの方ならわかるのかな、と少し羨ましく感じました。
これを機に、武器についての本も読んでみるのも良いかもしれません。
ホリデーシーズンの読書におすすめ
あとがきで、「発表するつもりがなく、自分の楽しみのために書いていた作品である」とM.W.クレイヴンが述べているように、
綿密なトリックがあるような小説ではありませんが、
創作の初期衝動、「とにかくかっこいいキャラクターの格好良いところを描きたい!」がこれでもかと詰め込まれた作品です。
この作品中にある、勢い、衝動のようなものはとても強く、
荒っぽさはあるけれども引き込まれ、勇気をもらえます。
2024年、
仕事や学業、家事に取り組んでヘトヘトになった方、
特に、周りに気を遣い、
周りの言う通りに頑張ってきてストレスを溜めてしまった方こそ、
思いっきり非日常で、思いっきり暴力的なこんな作品を楽しむのはいかがでしょう。
もちろん、暴力描写が苦手な方はやめておいてくださいね。