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2024年8月12日 「SF漫画で倫理学 何が善くて何が悪いのか」 感想


萬屋博喜「SF漫画で倫理学 何が善くて何が悪いのか」さくら舎 を読みましたので、その感想です。
今回は、紙の本、書籍で読みました。
やっぱり、紙の本は、紙の本で良さがありますね…。


キャッチーな装丁とタイトル


「もう本は買わないぞ」と思いながら友達と駅構内の本屋に入って、そのキャッチーな装丁とタイトルに惹かれ、BRUTUSの SF特集と迷った結果、手に取った本です。
レジに向かいながら、
「さようなら、BRUTUS。やっぱり君とは分かり合えそうにない…」と思ったことをここに記しておきます。
さて、この本の表紙イラストがまず目をひきました。タイトルの周りに、絡み合うコードを背景に、コールドスリープしている人間、キメラ、飛行機に乗ったむき出しの脳、惑星、廃墟、宇宙服を着た2人組、遺伝子で縄跳びする人型たち、羊(ドリー?)、戦闘イルカ、砂時計、始祖鳥、本を読むロボット、染色体、サメが、可愛らしいタッチで描かれています。
SF好きならきっと目にとまることでしょう。
とてもかわいい表紙です。

倫理学がわからなくても大丈夫


かくいう私も倫理学について、全く知識がなかったのですが、この本は読み通せました!
予想していたより、ずいぶん、読みやすい本です。
それは、著者と編集者が、この本を門外漢の読み手にまで、届けようと、構成に力を注いでいるからでしょう。
序章で、倫理学とは何かをわかりやすく説明してから、本論に入る展開となっています。
この序章を読むと、『倫理学とは、絶対の結論がでないことについて色々な見地から考えてみる学問』なのかな?という自分なりの仮説を持つことができました。
倫理学とは何ぞや…という皆さんも、気軽に読み始めてみることをおすすめします。

かゆいところに手が届く?親切設計


というわけで、本書は、まず序章で倫理学について説明してくれる親切設計なのですが、そこはやはり「倫理学」、
「何だろうこの用語…」とか「これってどう意味で使っているのだろう」という用語が頻出します。
しかし、焦らずとも大丈夫です。
章の終わりごとに、その章においてキーワードとなる用語は用語集としてまとめられているのです!
わからなくなったら、章の最後をみましょう!
大抵の場合、読者がわからなくなる単語については説明されているはずです。
英語表記とともに説明されています。

著者のSF漫画への造詣の深さと要約のうまさ


本書では、かなり沢山のSF漫画が取り上げられています。
昔のものからつい最近流行ったもの、ジャンルも幅広く扱っています。
クローンのテーマで
手塚治虫の『火の鳥 生命編』が取り扱われるのは予想ができましたが、
『寄生獣』が、『なぜ自然を守らなければいけないのか?』というテーマで取り扱われるとか、
『銀河鉄道999』が、『身体的特徴のちがいは差別につながるのか?』で取り扱われるのは予想外でした。
最近の作品では、『BEASTARS』や『進撃の巨人』も取り扱われています!
この2つもSF漫画だったのですね。
漫画をそれなりに読んでいるつもりでしたが、
知らないものもかなり多くありました。
それでも、著者の漫画の要約がうまいので、問題なく、読み進めていけます。
著者は漫画の内容を損なわずに、もしくは、重要なネタバレをある程度、回避しながら、端的にまとめるのがとても上手いです…。
これは筆力があるということでしょう。
知っている漫画についても、「うまいあらすじ説明だなぁ」と思いながら読んでいました。
また、重要な場面は漫画の一部が、載っているので、漫画の絵柄や表現も楽しめます。
取り扱われている漫画だけでもかなりの数なのですが、章の終わりには、読書案内として、その章のテーマに関連する書籍だけでなく、さらに同テーマを扱っている漫画が載っています…。
恐るべしです。
ですので、
本書は倫理学の入門書であるだけでなく、
「SF漫画、何から読んだらいいだろう」という人の読書案内にもなる本でもあります。

どうしてSFが好きなのか


本書を通じて、どうして自分がSFが好きなのかを改めて考えることができました。
それは、目の前で起きているもしくは起きつつある、割りきれない問題に対して、思考実験しようとする、人間のアプローチだからです。
SFには、希望が残されています。
ちょうどパンドラの箱の1番下に残っていたような希望が。
この世界はどうしようもなく、
どうにもならないのかもしれない、
もっと悪くなっていくのかもしれない、
それでもその中で、何とかやっていける道があって欲しいという人間は、多分SFが好きなのです。
思考実験出来るということは、最後の希望です。
もしかすると、フィクションを読んだ中から、実際にその問題を解決する技術や考え見つけられる、誰かが生まれるかもしれません。
私のSF好きは、心配性ながら、希望を諦めきれない性格からきているのでしょう。
また、自分がまだ考えたことのないこと・視点に触れるという喜びもあるのだと思います。
好奇心が強い人間とSFはきっと相性が良いのです。

涼しい部屋で、新たな視点を


少し秋めいてきたとはいえ、
まだ暑いですので、涼しい部屋で
読書をするのも一興です。
(間に昼寝を挟むとなおよろしい、と思います。)
その折には、
当たり前だと思っていることについて
様々な観点から楽しく考えることができる、本書をおすすめします。
紹介されている漫画で読んだことのないものを読んでみるのも良いかもしれません。
本書は、読んだ後に、漫画や別の書籍へ、広がっていくだろう、触媒のような一冊です。


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