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詩のまとめ2024秋


物語の精霊

ありふれた小話を 火に焼べる
葡萄の蔓つるほどよい薫りはたたぬが
ポウッツと 瞬間はぜては
物語元素へと帰ってゆき
インクが焦げるそれに誘われ
古書の妖精までも 遠巻きに集っている

燭台の陰で 物語の精霊がみつめている
酒に飲まれるほどに 文士は燃やすだけの紙束をなじり
丸めて 破いては 霊厳なる元素の散乱をみる
物語の精霊は かつてW・B・イェイツに W・ブレイクに
数多の筆をとる者に 高貴な衝動を投げかけていた

文士は やぶれかぶれの疲れをおぼえる
暫し呆けては 中途の原稿が 炎のあかりで照らされて
  元素の帰還に誘われ ひきよせられた 物語の精霊は
 霊感を書き連ねえる者 そのガイストの幽かな響きを遠くにきき
その短い滞在の去り際 ふと光を投げかける

そうして 文士は書棚の机へと呆けたまま歩き始める

鐘楼

 教会の鐘が接収され、街のうわさは人を辿るようになった。
喪を、安息を伝え赤茶色の屋根がつらなる風景に木霊していた荘厳なレガートは消え失せ、鐘塔守は街路を幾つか跨いだ小家屋で馬具装飾の仕立て屋になった。
かつて鎮座していた住民が去り、伽藍と空間がこしらえられた鐘楼で、街の依頼で吟遊詩人たちが通りすがりに楽音を奏でるようになり、吹き抜けの尖塔内部は楽音を嚥下し、階下にも遅ればせながらに響いた。

戦地近くの村で 傷つき餓死せんとする老婆のかそけきふいご その上に降る雨を
河岸にて起こった憤怒に駆られる出来事を
こまっしゃくれた讃美歌を
銀色に淡く光る弦楽のクラスターのことを
とある学派が希求した蒼い石の言い伝えを

素朴な器楽音の旋律に調子をあわせ それらの詩歌を朗じた。

その鐘楼は 物語への乾きを感づる街の人々への求心力と慰めを備え
吟遊詩人のまなざしは 愚昧さや悪霊を遠ざける遠心力を放った。

教区のはずれで ひとり 老婆が佇み 想いにふけっている。
「戦地で旅立ったあのひととの記憶は 
いつだってあの鐘の音と一緒だったさね。
頬が薔薇色に染まりおりし頃
あのひとをおもう私の耳のなかで鳴り響いていた小さな鐘の音
忘却の訪れが来ることなど ありはしない
胸のうちで打ち溶けた
時には遠くから木霊した鐘楼の鐘の音
そのふたつの鐘の響き 
どんな詩歌もかなうもんかね」
そういって 竈の鍋に放り込む分だけ キノコをつみ終えると
薄暗くなりはじめている その空を今は静かな響きが満たしている 普段の家路についた。

ゆくゆくみちゆき

ゆくゆくみちゆき
ゆきとまみえおり
とおめはくゆるし
どんどこふるふる
あのひとはこぬか

こぬひとたゆたう
にしのもえるくに
まほろばのみかげ
あずかりしれぬの
かのひとのこころ

せつるのわがまな
かしこにかれみて
さかのぼるわらわ
いくせかけのぼり
はいぎょになって
ふゆだまりいでて
もえるかのだいち
こいしくこがれて
えりそでほつれし
かのひとまつまに
つとみもはらわず
ゆきつむわすれて

にじむのわがまな

のびにおうていた
ひのおちたくにで
ねつかぜおよぶに
ここくのかのひと
かげろうにくゆり

とおめにきえゆく
おうせはまほろし
はるかなおもひで
おうことかなわず
うつしみさまよう
かのひとおもひて

のびにおうていた
もえおつるくにで

せつる とは
 昔とある港町にセツという女性が住んでいた。漁に出ていた幾隻かが遠目に見えるとセツはその喫水のほどを見てどれだけの人出が必要かを見極め、集落の女たちにふれまわった。このとある地区に残る話から派生転じもした動詞で、幾分焦燥にあり次々と目で追う、探し求めること と現代では解釈される。まあ、そういわずとも、この文字数と語感がほしかったんだよね。

無題

私は夢見る
大気 水 土壌は
人類が繁茂する前であるかのように 澄み清く豊穣で
緑濃く 鳥の群れ ミツバチは飛翔する よ
なにかの為に 殺しあうことは絶えて久しく
理智や慈愛が行き届きわたり
人は同胞のため 生産活動に従事すること
それを必要なだけこなし
よろこびの共同作業が集いを包む よ
最低限の物質的なものは 保障され
おもいわずらうことなく
たかだか100年ばかりの生ながらも人は
安寧と感謝 幸せと平和のなかにある

土地が養えるよりも無思慮に人間は繁殖することはなく
環境は保全 維持され 
種の多様性は保たれ
継続的に人の都合で利用できるように というお題目ではなく
敬意を持ち 絶滅すること無きようこころを砕く
おとことおんなそのほかのもの 愛と調和が流れ往還し
根源ではひとつであることへの理解へから 仲睦まじい よ
陰と陽 対極の相が円環を描き
歴史的 貶めれれた聖なる女性性 そして男性性は
その本来の生命力 生きることのよろこびに 触れる よ
ひとは 生命の神秘なちから溢れる恍惚のうちに 暮らし
尽きることなく 満たされ続ける感覚のなかで 生を終える
善悪の分離思考 宗教の教条主義に対する信仰 貨幣信仰 
それらが生む 進化の遅れと創造的認識獲得への妨げ は克服され
地上にあることの 閉塞感 
貨幣を所持していないことくらいで人は死なねばならぬそのありよう
システムの上での 絶対的な愛の欠如は薄れゆく

わたしが生まれた時 すでにそうだったのだ
何故 そういうありかたを甘んじてつくったのか 
まったくわからなかった

日常意識をはなれ
星々をもつくりたもうた 創造意識の愛が 孤独のなかで
ひとをつらぬき 閃光が霊的意識サイドに 散る
妙なる慈愛の響きの横溢に
ひとは すべてを 顧みる

岸辺

生のいみを知ってください

今度きみと会う時には

鳥がさえずり 花が咲き乱れているというから

きみと寄り添い歩くというのに

黄色く感情を迸らせながら 生の喜びを謳歌し羽ばたく鳥たち

凛とした清楚さ 季節の巡りの中 束の間華やぐ鮮烈な花辺

それらはきみの五感には届いてはいるが

こころの岸辺までは打ち寄せてはいぬ

天上から降る予感が

鳥と 花と

ともにあることはもっと違った存在のありかたのはずだ と告げる

鳥が 花が きみであるなら

僕は きみとも ともにあるだろうに

地上の岸辺に ふたりは立ってる

生命の波打ち際でいつか 僕らはぼくらと親しいもの達になる

この国で抑留される

熊本が災害に襲われた時
決壊しそうになる感情を押し殺してカメラに向かい語りかけていた
同胞のいのちをおもう気持ち
あれは嘘だったのか

自らのいのちを守るために行動をしてください
なりもふりも構わず叫び続けていた
あれは嘘だったのか

戦場のメリークリスマス(曲) はてしない物語
広く流布することになった作品の創造主
それらのものとともに
減価する貨幣が 交換価値と蓄財機能が同居すること
その地上の不幸をかなぐり払う可能性について論じていた
少なくとも同胞に認識の材料のほどを分け隔てなく供し
善なる衝動 荒れ野をかけ連なる山々をかけ海峡を泳ぎわたり
国土に在する専門分野に於ける その集合知を得る為 
その職種の心意気 魂をもって聞き書きとめ
想いを巡らし予測され考えうる
未だいたるに及ばぬ危惧をも並列的に知らしめ
何物にも囚われぬ純粋思考の領域へと分け入り
時に民にひかりを投げかけ みちびき たたかっていた
もはやあなたは夢かうつつかまぼろしなのか

子宮という器官を生来ありながらにしてそなえ
宇宙へと通づる生命の次元の門 その人々
数百万年いくせにも渡りあったいのちの連鎖のその危機を
短命の種族になってゆくかもしれぬ その空想を
人類史上におき はじめて
ある種の現実味と共にできる状況がある その日常のはざま
与謝野晶子が 石牟礼道子があげた雄たけびを
なぜに声高に叫ばぬのか

石原吉郎が抑留中に体験もし眼にしていた
疲れ果て ろくな食物も与えられぬ人々
よろめき隊列をはみ出すなり規律に反したとして
いのちの危険が即座に及ぶその朝夕の行進
その隊列の端をいつも自ら進み選択していた男
隣に在し並び歩く同胞の 故国で待つ家族のために
そりいっそうの危機のなかで生きようとしたもの
そしてそんな 同胞をこそ親しみをもって示唆し庇護しようとする
女々しいおとこは ほとんどいなくなったのだから

悪意が辿った未来の回想

憎しみと悪意をもったひとりの放浪のならず者と
七つの海を航海することを夢想していた異国のひねくれた陪審員が
あまり聞くことはない名前の子供を産んだ
一族の子孫は栄え 地の様相はかわった
錬金術師がその繁栄を羨み
あやかり拵えた 土くれは
まねられたその子が
我が両親の願いを知悉しているかのようと 感心した

その時代の日がのぼり 沈むまでに
動物がまるで土くれになりゆくかのように振る舞うことが流行し
多くの者は 自然な形を踏襲せずに土に還っていった

あずかりしれぬ風土のことさ と
皆他人事のようにむざむざとおのれのなりわいを続けた
錬金術師とそれを重用した一派は
皆 のんしゃらんとマイウェイを謳いあげ
土くれには彼の意志がありますから と
生命の神秘の一部を紐解いた錬金術
そのことごとくを忘却し 素知らぬふりをした


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