著者は英国人でケンブリッジ大学で社会人類学を専攻し博士号を取得し、その後フィナンシャル・タイムズのジャーナリストになった異色の経歴の持ち主。(東京支局長として日本に滞在したこともある。)本書の原題は「人類学的視野」で2022年に出版。現在、グーグルなど始めとする欧米のハイテク企業は積極的に文化人類学者を採用しているが、これは人類学者は他者の心の中に入り込むことを学び、異文化を理解するだけでなく、インサイダー・アウトサイダーとして新鮮な視点で自らの環境を評価し、別の視野を得るのに役立つからだという。
この人類学的視野を活用することで、経済分野、金融業界やハイテク産業などでも広い視野と「WHY」を突き詰める視点を確立し、多くの人たちが「見えていないもの」を正しく「見える」ようにすることがいま求められている。それによって社会も組織もより良い方向に変化していくのではないかというのが著者の考えである。
実は私自身も大学時代に文化人類学を専攻して、その後ハイテク企業で勤務した経験もある。私が確固たる人類学的視野(アンソロ・ビジョン)を持っているかどうかは定かではないが、文化人類学は未開民族の研究だけ留まらない奥の深い優れた学問体系であることは理解しているつもりである。その意味で、日本の企業も大きな進化を続ける欧米のハイテク企業同様、この「人類学的視野」を導入することをお薦めする。この本はその理解の大きな一助になるのではないかと思われる。
【目次】
まえがき もうひとつの「AI」、アンソロポロジー・インテリジェンス
第一部「未知なるもの」を身近なものへ
第一章 カルチャーショック――そもそも人類学とは何か
第二章 カーゴカルト――インテルとネスレの異文化体験
第三章 感染症――なぜ医学ではパンデミックを止められないのか
第二部 「身近なもの」を未知なるものへ
第四章 金融危機――なぜ投資銀行はリスクを読み誤ったのか
第五章 企業内対立――なぜゼネラル・モーターズの会議は紛糾したのか
第六章 おかしな西洋人――なぜドッグフードや保育園におカネを払うのか
第三部 社会的沈黙に耳を澄ます
第七章 「BIGLY」―トランプとティーンエイジャーについて私たちが見落としていたこと
第八章 ケンブリッジ・アナリティカなぜ経済学者はサイバー空間に弱いのか
第九章 リモートワーク――なぜオフィスが必要なのか
第十章 モラルマネー――サステナビリティ運動が盛り上がる本当の理由
結び アマゾンからAmazonへ――誰もが人類学者の視点を身につけたら
あとがき 人類学者への手紙
以下、気になった個所を抜粋:
(2004年2月20日)