![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80518938/rectangle_large_type_2_f4d8e3422d263ac9c9c648944c8d1241.jpeg?width=1200)
読書記録:「伊勢物語」「土佐日記」を旅しよう
「自分に影響を与えた本を一冊紹介してください」と問われて紹介すべき本はあるか?
すごく狭い範囲で言えば、若木未生先生の「AGE/楽園の涯」を推したい。
だけど残念ながら知ってる人が少ないだろう。若木先生の幻のデビュー作が収録されててね!みたいな話を早口でするわけにもいかない。
こういう質問への回答は古典が良い。古典的名著が良い。
自分の場合で考えると何か?
そう「伊勢物語」だ。
高校生から大学の頃に一番読んでいて、その後ほぼ読んでいないが影響は大きい。社会や他人に期待せずに、するするとストレスを貯めないライフスタイルを築く上で最も参考になっている本だと思う。
伊勢物語が影響を受けた本です、と回答する上では内容はちゃんと理解すべきだし、作中の歌もスラスラと諳んじられるほうががいい。
だが、歌は伊勢物語最後の歌の一つ前(以下)しかちゃんと覚えていない(とうか、もはやそこしか記憶に残っていない)。
思ふこと いはでぞただにやみぬべき 我とひとしき人しなければ
それならばちょっと思い出してみようかと、図書館で伊勢物語関連本を探していたらたまたま見つけた一冊です。
この歌を主人公の「昔男」が、物語の最後に、老人の域に入って生を全うする前に詠む。そしてこの後に最後の歌を詠んで終わる。
美しさはここに凝縮されていると、自分は思う。
では、本の内容に入る。
「伊勢物語」を旅しよう
本著は、作者の津島佑子先生がご自分の15歳の娘さんと一緒に伊勢物語の舞台をめぐる形で展開されます。(著者のことはほぼ存じ上げておりません、すみません)
「これを読めば作品の内容を思い出すか?」という期待をもって読み進めたが、実際のところは全く異なる感想を得た。ので、それを書きます。
まずは伊勢へ
伊勢物語序盤は色恋沙汰のエピソードが主体で、正直よく覚えていない。伊勢を舞台にしたエピソードもその一部。斎宮とかいわゆる処女性のある相手との逢瀬や恋愛をベースに話が進んでいくようなそんな感じである。
それより本著の中で、作者と娘さんが伊勢神宮近くの「赤福」に寄って甘味を食するのだが、赤福といえば賞味期限の偽装事件。あ、これまだ事件前の赤福だ!と気付いて時代の変化を感じる。
そう、この本は1990年に刊行された本が元になっている。
刊行が1990年なら、実際に旅行をしたのは昭和かもしれない。
そう気づくと、伊勢物語よりも昭和の旅行記を読む楽しさがじわじわと湧き出てきた。
30年前の計画がグダグダな旅行
初日に赤福で時間ゆったり時間を過ごしてしまい旅程が崩れる。
適当にタクシーに乗って伊勢物語ゆかりの地を巡るわけだが、え、これまじリサーチ不足じゃね、と思うくらいに行ってみると残念スポットだったりする。
そしてよく道を間違えたり電車に乗り間違えたりする。
昭和の旅行、こんなもんだっけ?
たしかにスマホもないしネットもない。
まだ旅行情報誌も発達していない。遠方にある観光地の情報はかなり限られただろう。
読んでいて「大丈夫か?」という感想ばかりになって伊勢物語のエピソードが頭に入らない。昭和あるあるエピソードが強い。
読んでいて、もう正直本の主題はどうでもよくなった。
この記録旅行はうまくいくんだろうか?
京都に行って寺院に入ろうとして、管理人にメチャ怒られるエピソード。
一緒に行った娘さんはカメラマン役として撮影していたが、写真は全然ちゃんと撮れておらず、けっきょく後日本職のカメラマンが取り直した話。
たしかにデジカメなんてない時代だ。仕方ない。それより娘の動向を編集部は許したのか。まぁ親不在で家に置いていくわけにもいかないし、仕方ないか…。
それにしてもゆるい。
編集部はなんで作家という社会性を得意としない人を一人で(今回は娘と二人で)取材旅行に行かせたのか?
リサーチも旅程も用意せずに著者に丸投げしていた感が強い。事前に取材依頼もしていないので門前払いされたりする。なんなの?Youtuberなの?
……。
ただ、思い出す。当時はゆるかった。昭和だ。
現在、令和はまたゆるく人々が連携する方向へ進んでいる
昭和の紀行文ならゆるくても納得がいく。
そうだ、「ゆるさと厳しさは周期的なんだ」と、思い出す。
平成期の日本になって、マナーや体裁、計画性、実力主義が勃興した。
今の自分の年代が抱えている感覚はこの、計画重視・効率重視の方向性だが、社会的には現在はもっと許容性が高くなっている。計画できない人がいてもいい。紀行文なのにちゃんと聖地巡礼できてなくてもいい。
僕はこれを読んでちょっと共感できた。
これは、社会の揺り戻しかもしれない、と思った(もちろん社会に関する議論はこの30年余で進んでいて、それだけはないことは理解している)。
最後に、編集者と日帰りで取材旅行にいくエピソードもあるのだが、これもグダグダだった。マムシが出るのが怖くて取材どころではないエピソードで終わる。
編集者大丈夫か?と思ってしまうあたり、自分はきっとこの現代の社会に適合する感覚にまだなれていない。オールドタイプかもしれない。
多様さを許容できる人間になりたい。と思って終わります。