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レジオペレーションも改善する!?店舗DXとは?

前回(ブランディングが店舗スタッフにもたらす効果とは)お伝えしたように、小売業界では生産性向上、従業員エンゲージメント向上、ブランディングといった観点で、従業員のコミュニケーションを活性化するための店舗DXに注目が集まっています。
さらに、BOPIS(Buy Online Pick-up in Store)など新しい買い物体験が登場し、実店舗の環境や役割が大きく変化する中で、店舗スタッフに対して新しい環境への適応を促すためのサポートが必要とされています。このようなニーズに応えるべく、海外ではスタートアップ企業を中心に新しいソリューションが続々と誕生しています。

今回は小売業の最前線で働く人たちのために、デバイスを活用したコミュニケーションプラットフォームを提供する2つの企業をご紹介したいと思います。

店舗スタッフの価値や満足度を高める、ハンズフリーデバイスの可能性

はじめに紹介するのは、2011年にアメリカで創業したTheatroです。同社は店舗スタッフなど、PC端末の前に1日中いることがない従業員のために、本社から現場まですべての人をつなぎ、チームとして優れた顧客体験を提供できるように支援を行っているスタートアップ企業です。Theatroが提供するモバイルコミュニケーションプラットフォームは、最前線で働く従業員にウェアラブルのIoTデバイスを提供し、有線のヘッドセットを装着することで、スタッフ同士でお互いに通信することを実現しています。

小売店舗ではこのソリューションを活用することで、作業しながら離れたスタッフとコミュニケーションを取ったり、ヘルプを頼んだり、その場を離れることなく商品の在庫や価格を確認したり、顧客からの質問に答えるためのリソースにアクセスできたりします。また、店舗マネージャーはスマートフォンアプリを使用して外出先からでも店舗スタッフとリアルタイムにコミュニケーションを取ったり、情報提供を行うことができます。

さらにコンテンツ配信ツールを利用し、会社からの重要なメッセージを直接現場の従業員へ伝えることも可能です。例えばCEOから従業員へライブメッセージを送ることで企業に対する透明性が増し、エンゲージメント向上につなげることができるのです。

同社はパンデミック以降、顧客が再び優れた体験を求めて店舗に戻り始めているものの、小売企業は人手不足に苦しんでいると述べています。そして、人員を大幅に増員せずに顧客が期待するサービスレベルを実現するためには、現場に最適化されたツールを活用してオペレーションを簡略化する必要があると言います。

具体的な手段として、「毎日発生する運用タスクの自動化」「本社から店舗への迅速かつ効果的な情報共有」「すべての従業員が人や情報と即座につながること」といった項目を挙げ、モバイルコミュニケーションプラットフォームを導入することで、これらのオペレーションを実現できると説明しています。実際にある小売企業ではTheatroのソリューションを導入したことでサービス速度が32%向上したそうです。

また近年、ニーズが劇的に増加しているカーブサイドピックアップ店舗運営に大きな変化を生んでいるようです。

米国最大級の農業用品小売店チェーンTractor Supply Companyは、2021年第1四半期の決算発表で、デジタル売上の約75%がBOPISおよびカーブサイドピックアップによる注文だったことを発表しています。

Tractor Supply Companyはモバイルアプリを展開したことだけではなくTheatroのソリューションを導入したことで、BOPISとカーブサイドピックアップによる便利かつ安全な買い物体験を確立することができたそうです。具体的には、オンラインで注文を受けた店舗では、店舗スタッフがヘッドセットで通知を受け取り、迅速にアイテムを収集できるようになりました。顧客が店舗に到着したことを通知すると、顧客の名前や注文内容、車両情報などの情報を含む通知がチームメンバーに送信されるため、顧客は到着後もスムーズに商品を受け取ることができます。

このような小売業の変化についてはTheatro CROのAlan Jezek氏が2020年7月に出演したinsight.techのポッドキャストの中でも伝えておりました。
例えば“数か月前まではほんの一部の小売業者だけがカーブサイドピックアップを提供していましたが、パンデミックで危機的状況になると、ある全国規模の小売業のお客様はチェーン全体に通信機能を展開し、それを駐車場にも拡大することで駐車場での新たなサービス(カーブサイドピックアップやリターンなど)を積極的に展開するようになった“とのこと。
また、“過去3年間、カーブサイドピックアップをどのように提供するかを検討していた大手ホームセンターでは、パンデミックをきっかけに2,000店舗以上で展開することができた”こと、などについて触れていました。
そして、リスクをとった行動が素早くできたこれらの取り組みから、“小売業のイノベーションに対するこの積極的な姿勢が、このニューノーマルの中で生き残る教訓の一つになることを願っている”と語っていました。

このように、IoTデバイスを活用したコミュニケーションプラットフォームは、店舗スタッフのコミュニケーション活性化はもちろんのこと、サービスの質向上新しい買い物体験へのスムーズな対応、顧客と従業員双方の満足度向上にも貢献する可能性があるのです。

POS×IoTデバイスで、店舗スタッフの連携をシームレスに

コミュニケーションプラットフォームを提供するスタートアップ企業としてもう一つ紹介したいのは、2014年にドイツで創業したReAct Now GmbHです。同社は小売業や工業、医療におけるコミュニケーションのDXを支援するスタートアップ企業。スマートウォッチ、タブレット、スマートフォン、ヘッドセットなど、自在に組み合わせて活用するIoTコミュニケーションプラットフォームCall to Action」を提供しています。このプラットフォームを導入すると、様々なデバイスの中から現場に最適なデバイスを活用して店舗スタッフ同士でターゲットを絞った音声メッセージの通信、一人ひとりのタスク通知・完了報告などを行うことが可能で、直感的なユーザーインターフェースのためトレーニングの時間がかからない点も特徴です。

このソリューションは店舗スタッフのコミュニケーション活性化はもちろん、顧客体験の向上にも貢献します。例えば、レジの混み具合に応じてレジの増減が必要なことを他のスタッフに通知し、新しいレジが開いたことを顧客に音声などでアナウンスすることもできます。別のレジからのリクエスト、店長の呼び出し、価格の問い合わせなどにも柔軟に対応できるため、店舗スタッフのスムーズな連携と、顧客への快適なサービス提供が可能になるのです。

ReAct Now GmbHは2022年にPOSソフトウェアの国際的なプロバイダーであるGK Softwareとのパートナーシップを発表しました。GK Softwareのプラットフォームと連携することで、小売業者により統合的なソリューションを提供することを目指しています。

買収による新しい価値創造にも期待

2回にわたって店舗のインナーコミュニケーション領域におけるスタートアップ企業の動向を紹介しました。お伝えしてきたように、資金調達による事業拡大やパートナーシップによる共創の流れが生まれていますが、同時に様々な業界の企業にスタートアップ企業が買収される動きも出てきています。

例えば、小売店舗におけるスタッフとのコミュニケーション、スケジュール作成、出退勤や休憩時間の管理、分析レポートといった機能をオールインワンで提供するPlandayは、2021年にクラウドベースの会計ソフトウェア企業のXeroに買収されました。Xeroは自社とPlandayのソリューションを統合することで、人件費や収益などの主要なビジネスパフォーマンス指標をリアルタイムで把握し、適切な人員配置の調整を実現しています。また、現地のコンプライアンス規制を反映した賃金管理なども確実に行うことが可能です。

職場での透明性を高め、従業員とのコミュニケーション向上および信頼関係構築を目指して設計された従業員エンゲージメントプラットフォームを提供するTINYpulseも、2021年に従業員のウェルビーイングを支援する企業Limeadeに買収されました。TINYpulseの優れたテクノロジーを活用することで、より従業員のニーズに耳を傾けられるようになり、結果として従業員のパフォーマンスを向上させ、職場のポジティブな変化を促進できるようになります。今後、Limeadeが持つ100カ国超、数百万人以上のユーザーに最大の価値を提供することを目指しています。

一方、前回紹介したStaffbaseが、従業員エンゲージメントの向上と組織開発を目的としたプラットフォームを提供するValo Solutionsを2021年に買収したり、同じく前回取り上げたLumAppsがオフィスでの新入社員研修をサポートするHeyAxelを2022年に買収するなど、スタートアップ企業が自社ソリューションのさらなる拡大・発展を目的に他社を買収するケースも出てきています。

今回は様々な事例を見てきましたが、いずれの企業にも共通しているのが、「従業員エンゲージメント向上やインナーブランディングが、生産性向上のみならず、結果的に顧客体験の向上や収益につながる」という認識ではないでしょうか。あらゆる業界でインナーコミュニケーション領域の企業間共創が進み、市場が活性化する中で、店舗DXはどのような発展を遂げていくのか、国内外の動向を含めて今後も注視していきたいです。