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意外と知らない水産流通。売れるようになったはずなのに…魚の販路拡大は難しい⁉︎
“海水温が上昇し伊勢海老が北上している”というような話を耳にするなど、気候変動の影響が気になる昨今ではありますが、それでも海に囲まれ魚介類を食するのに恵まれた日本。日本は寒流と暖流がぶつかり合う水域ということもあり、世界の海水魚の約25%にあたるほど、たくさんの魚が生息しています。しかし、それを支える水産業は高齢化や人手不足といった様々な問題を抱え、事業の継続が危ぶまれるなど厳しい状況に直面しているようです。
こうした課題に対して、水産庁をはじめとする行政や自治体、そしてスタートアップなどの企業が改革に取り組んでいます。
そこで今回は、水産流通の課題解決に取り組む株式会社ウーオ CEOの板倉一智氏に、いま水産業で起きている課題について様々な視点からお話しいただきました。
(聞き手:東芝テックCVC投資担当 吉村)
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魚は家で食べる?外食で食べる? 消費者志向からみるスーパー・飲食店の課題とは
吉村:“魚離れ”が進んでいるという話を聞きますが、魚を食べたいと思っている人たちは変わらず多くいると思います。消費者の変化として何か感じていることはありますか?
板倉氏:消費者については私たちが直接サービスを提供しているわけではないのですけど、これまでは家で魚を調理する文化があり、それが当たり前に行われていたところ、今はどちらかというと、「魚は外食で食べるもの」という考え方で、飲食店で食べる機会が増えてきているというデータが出ているような状況ですね。
吉村:家で食べる機会が減っている原因はいろいろありそうですね。
板倉氏:そうですね、時代的な変化もあると思います。例えば共働き世帯が増えていて、より簡単に食べられるものって考えると、肉と比べて魚は調理が面倒なんですよね。簡単に調理できる魚や刺身などは受け入れられているものの、どうしても家で食べる魚が少なくなってきている背景があるのかなと思います。
吉村:消費者の食に関する簡便化志向が高まっているというデータもありますし、丸魚を家で調理する手間を考えると、簡単に食べられるように加工されたものか、外食を選ぶのも分かります。
板倉氏:なので店舗でも、切り身で売っているものや、すぐ煮付けするだけで食べられる商品が増えてきていますね。
吉村:そういった消費者の生活スタイルが変化することで、小売店や飲食店で出てきているニーズは何かありますか?
板倉氏:スーパーでは魚のエラや腹を取った状態にする一次加工をできる人たちが少なくなってきているので、産地で一次加工された状態で仕入れができないかという相談が増えています。飲食店でも同じで、店舗で一次加工するリソースが足りないため、一次加工に対するニーズは高まっています。
吉村:スーパーや魚屋さんで購入した際に、お客様の要望に合わせて一次加工対応してくれることが多そうなイメージがあるのですが、そういうわけでもなくなっているんですかね。
板倉氏:やはりスーパー用にやるとなると一尾、二尾ではなくて二千尾とか三千尾というレベルになってくるので、リソースが足りないというケースがほとんどですね。
法改正だけでは変わらない商習慣。新たなプレイヤーの介在が変革のカギに
吉村:水産業界のプレイヤーは漁師から始まり、産地、消費地それぞれの卸業者・仲買・仲卸・小売店…など思った以上に多く複雑に見えます。ウーオさんから見て感じている課題があれば教えてください。
板倉氏:従来の水産業は一方通行で中間プレイヤーも多く、複層的な流通構造になっています。そのため、どうしても取引が固定化されてしまい、新たな仕入れ先や販路が見つかりにくいのが大きな課題としてあると思います。さらに、そういった流通構造の中で、日々のやり取りが電話やファクスで行われているので、言った/言わない問題やミスが起きるなど、非効率な業務フローになっている点も課題だと捉えています。
前者の流通構造については法律で決められていたのですが、2020年に改正卸売市場法が施行されたことで、ルール上は自由な流通ができるようになっています。
吉村:法改正によって産地や市場の人たちは販路を拡大し、自由に売買するようになったんですか?
板倉氏:いえ、法改正はされたのですが、そもそも産地や市場の人たちは、自分たちで仕入れ先や売り先を見つけるリソースを持っていないケースが多いです。魚のことに関してはプロフェッショナルですが、営業先を開拓するみたいなことはやったことがないので、何からやっていいか分からないし、そんな余裕もなかったりします。長らく続いてきた商習慣なので、法改正されただけではなかなか解決されないですね。
吉村:なるほど、人手もノウハウもない状態。つまり自由な売買をうまく回すためには新たなプレイヤーの介在が必要ってことですね。
板倉氏:はい、それをやっているのが私たちというイメージです。
水産業の流通構造を変え、魚を売りたい人と魚が欲しい人をつなぐ
吉村:卸売市場法の改正については、生産者の収入増や消費者ニーズに対応するという狙いがあると思いますが、国の取り組みとしても新たな流通を作っていこうという動きがあるということでしょうか。
板倉氏:卸売市場法を改正していること自体が、新たな流通を作っていこうという方針なので、そこは国が今の課題に気づいて法改正したのではないかなと思っています。
あとは海外向け輸出を増やしていく方針で、2030年に年間輸出額を今の約3倍の1.2兆円まで引き上げることを目指しています。国内のマーケットのみならず海外の販路を広げるための支援もあるので、国がそういった動きを進めているのは大きいんじゃないかなと思います。
吉村:輸出増への貢献という意味では、農林水産省などの団体が連携して日本の食や食文化を世界に広めるために戦略的なプロモーションも行なっているかと思いますが、“販路拡大”という点では、ウーオさんも仕入れ先や売り先を見つけるプレイヤーとして水産業界の「一極集中問題」にも取り組んでいますよね。
板倉氏:そうですね、一極集中問題が起こるのには2つの理由があると思います。1つ目は経済圏が大きい市場のほうが魚を高く買ってくれる側面があるので、シンプルに産地の魚屋からすると豊洲、大阪、名古屋のような大きい市場に出したいということ。2つ目は2024年問題でドライバーが少なくなっていることで、都市部への集中が加速しているんですよね。
そのような背景から都市部に魚が集まりすぎた結果、地方に魚が行き届かなくなって需要が取り込めず、逆に都市部では余ってしまうという需給バランスの問題が生じています。それぞれの産地が本来欲しい数量だけを仕入れられるかといったらそうでもないので、どうしても魚が余っている、あるいは足りていないということが起きてしまうというわけです。
吉村:水産物の販路を適切に把握して配送するのはかなり難しそうですね。
板倉氏:結局、取引量や取引方法などのデータが可視化されていなくて勘に頼っていますからね。例えば、「豊洲よりも大阪の方がブリは売れる」という情報が分からず、「とりあえず豊洲にブリを200ケース送っておけばいい」というような感じで、属人的な勘や付き合いで取引をしているから偏りが出てしまうんです。
吉村:なるほど、そういった商習慣から起こっている課題を解決するのには、従来のプレイヤーだけだと難しいと思いますので、ウーオさんのような新しいプレイヤーの存在がキーになりそうですね。
板倉氏:ありがとうございます。ウーオは「日本の水産業にとって、新しい流通をつくる」というミッションを掲げ、魚を売りたい人と魚が欲しい人をマッチングさせることで水産流通の需給を最適化することにチャレンジしています。そのためのサービスも展開していて、当社では「UUUO」というマーケットプレイスにアクセスするだけで、どこからでも買えるという環境を構築しているので、産地にとっては新たな販路が広がり、消費地には新たな仕入れ先ができるという価値提供を行なっています。
吉村:2016年に創業されていると思いますが、事業を立ち上げてから様々な活動をされていく中で、水産業の課題解決に取り組むにあたって難しさを感じているポイントはありますか?
板倉氏:やはりマインド的にこれまで慣れ親しんだ商習慣を変えるのに抵抗がある人は一定数いらっしゃるので、その意識を変えていくことはすごく大変です。ただ、そこをやらないと何も変わらないので、しっかりと向き合って人を巻き込んでいくことに愚直に取り組むことが大事だと思っています。最初の1社を作るのは大変ですが、1社に導入いただくと口コミで自然に広がっていくケースも多いです。諦めずに取り組んだ結果、今では豊洲とか大阪、名古屋の市場にある魚も取り扱えるようになってきましたし、全国の産地の中にウーオを知っていたり、使ってくださっている人たちが1社はいるようになるなど、比較的動きやすい状況にはなっています。
吉村:ありがとうございます。新たなプレイヤーとして受け入れられるにはいかに人を巻き込むかということが求められそうですね。次回は水産業の現場の課題解決に貢献するためのポイントなどについてお話を伺っていきたいと思います。
(後編につづく)
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