
「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」を彩る、”アンセム”という音の魔法
【8/12(日)「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018」 @ 国営ひたち海浜公園】
あの日、ひたちなかに訪れた参加者は6,9000名。
つまり「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は、たった1日で6,9000通りの形の期待と向き合っていた、ということになる。
もちろん、たった一つのイベントが、その全ての期待に完全に応えることはできない。
どれだけたくさんの好きなアーティストが出演していたとしても、全てのアクトを観ることは物理的に不可能である。
それでも、フェスが音楽ファンにとって特別なものであるのは何故だろう。
好きなアーティストも、好きな曲も、もっと言えば、性別も世代も価値観も生き方も異なる見ず知らずの他人と、たった一瞬でも通じ合えたような不思議な感覚。それはきっと、ワンマンライブでは味わえないものかもしれない。
誰に迎合しなくても、自分に嘘をつかなくても、大いなる一体感で心が満たされていく。
そんなフェスの奇跡を起こしてくれる唯一の魔法。それはアンセムである。
老若男女が集う大型フェスティバルにおいて、いくつものアンセムを持つアーティストは、やはり強い。
この日も、数々のアンセムが満場のGRASS STAGEで鳴らされた。
ORANGE RANGEは、序盤から"上海ハニー""以心電信""ロコローション"といった夏のアンセムを容赦なく連打。なんと中盤には"花"まで披露。そして、灼熱の太陽が照り付ける中、"イケナイ太陽"で会場を見事に完全掌握してみせた。
Superflyは、ロック、ジャズ、ブルースと軽やかにジャンルを往来しながら、会場全体を幸福なフィーリングで満たした。彼女のボーカルが圧巻であったことは言うまでもないが、"愛をこめて花束を"をはじめとする数々の楽曲の力に改めて心を動かされた。
そして、この日のトリを務めたのは、13年ぶりの出演となったサザンオールスターズ。
国民的ヒットナンバーだけを集めて繋いだような、完全無欠のセットリスト。
フェスのステージの規格を大きく逸脱したダイナミックな演出。
断言してもいい、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」の歴史を覆してしまうような最強のアクトであった。
サザンのアンセムは、僕たちの心を無条件に一つに繋いでしまう。
甘酸っぱい恋心、一度きりの青春、深すぎる情念、鋭い社会批評、強く儚き生命、そしてエロ。
全ては等しく尊いからこそ、それらを並列させて歌うべきテーマとして昇華させ、日本国民の明日を丸ごと肯定してしまう。
同じ歌を聴いて、同じ歌を口ずさむ。たったそれだけで、僕たちは互いを理解し合い、尊重し合い、助け合える。そして世界は変わる。
音楽にはその力がある。
そう信じさせてくれるサザンのアンセムは、あまりにも偉大だ。
デビュー40周年を迎えてなお、瑞々しい輝きを放つ新曲"壮年JUMP"を生み出してみせる桑田佳祐の創造性は、もはや恐ろしささえ感じさせる。
それは、高度な実験精神を宿したもう一つの新曲"闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて"についても同じだ。
そしてその2曲は、どうしようもないほどにポップであるからこそ、何の手続きも必要としないまま「みんなのうた」になってしまう。
僕たちは、これからも新しいアンセムを求め続け、アーティストはその期待に応えていってくれるだろう。
だからこそ、フェスの奇跡は、起こるべくして起こる。
数え切れないほどのアンセムに彩られながら、来年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は20周年を迎える。
※本記事は、2018年8月16日に「tsuyopongram」に掲載された記事を転載したものです。
【関連記事】
いいなと思ったら応援しよう!
