とき子ファミリーのおもてなし(前編)
虹をかける象のアイコンでおなじみのとき子さんに会いに広島へ行った。
当初の予定は彼女の『なけなしのたね』の刊行を祝って、広島の文フリに応援に行こう!というものだったのだけれど、広島の文フリは残念ながら延期となり、さらに残念なことにとき子さんファミリーの転勤が決まったために文フリへの出店は諦めざるをえないという。
でも、お会いしたい!文フリはなくてもとき子さんに会えればそれでいい!
お互いに会おう会おうと意思を確かめあって、ついにお会いすることになった。
今日はその一泊二日の広島旅行について、前後編に分けてみっちりと書く所存である。
覚悟してお読みください。
ちなみにとき子さんサイドの記事はこちらから。
広島駅北口にて
待ち合わせ場所は、広島駅の北口。
夜行バスを降りて9時半ごろ、のんびりと駅ナカを見て明太子定食を食べた。
明太子定食ご飯とお味噌汁のおかわりが無料とのお言葉に甘えて、二回ずつおかわりをして、もう一回してもいいかなぁと考えていたら二つ離れた席のご夫人が「私もおかわりしたいけど恥ずかしい」と夫らしき人物経由でおかわりを頼んでいた。
でもこの定食、明らかに明太子の量がご飯一杯分じゃないのよ。
しかも海苔や生卵もついているし。
おかずの賑々しさ的には、どう見ても小盛り茶碗三~四杯が適量である。
全然恥ずかしいことなんかじゃ、ないですよ(小声)。
でもいたなぁ、おかわり恥ずかしがる人。
昔、せっかく好物が余っているのに一人では取りに行けなくて「るるるちゃん、一緒にABCスープ取りに行かない?」って誘ってくる子がいた。
ABCスープはアルファベット型のマカロニが浮いたミネストローネで、当時それほど人気ではなかった。私も好きでも嫌いでもなかったけれど、彼女と同じ班の時にはよく一緒に取りに行かされたものである。
そんな小学生時代の思い出をそっと撫でながら、さらなるおかわりは止めておくことにした。
満腹のお腹を抱えて賑やかなお土産店をぶらついていたら、とき子さんから「北口一階のトイレにいます」とLINEがきた。
一階に下りたら、たしかにトイレのマークがある。
ああ、あそこだ!といそいそと向かったら、ちょうどトイレから出てきた女性がいた。
もしかしてこの人かしら……とおそるおそる顔を盗み見ながら、とりあえず連絡を入れようとそっとスマホを取り出すと、向こうも同じようにこちらを窺いながらスマホを取り出そうとしていた。
「あの……とき子さん……?」
「えっと、つるさん?」
私たちは「はじめまして」と女子トイレの前で深々と頭を下げ合って、次の瞬間ブッと噴きだした。
宮島へ
ベンチに座って待っていた小学三年生のお嬢さん、Sちゃんと合流し、とき子さんのお車で宮島へ向かう。
とても数分前に会ったばかりとは思えない気楽さで「清世さんの展覧会どうだった?」「あの人読んだことあります?雰囲気がすごく好きなんですよ」などなどnoteでの共通の友人知人の話で盛り上がりつつ、スカッと晴れた青空のもとを走る。
宮島につくと、おじいさんおばあさんが「500円」と大書きされた看板を手に駐車場の勧誘をしていた。
あら、とき子さんのご本『なけなしのたね』と同じ値段じゃない!
ちらちらとその500円の駐車場が気になりながらも結局どこにあるのかわからなかったので、一日1000円の駐車場に停めてもらった。
そして宮島へのフェリーの切符を買って乗ろうとしたとき、最初のトラブルは起きた。「この切符じゃないんですよー」と駅員のおじさんが切符を受け取ってくれなかったのだ。
なぬ!?!
いま買ったばかりの切符は、JRのものだったのだ。
慌てて返金してもらってフェリーの切符を買いに走ろうとしたら、「もう間に合わないから、このまま乗っちゃって!乗車料はあとで払えばいいですからー!」と急かされた。
走って船に乗り込み、大人二人がぜいぜい言っていたら「二人とも疲れすぎだよぉ」とSちゃんが笑う。小学生の若さが眩しい。
久しぶりに全力疾走したせいかお天気のせいか、ものすごく暑い。
空気も綺麗で、海もキラキラしている。
絶好のお出かけ日和だった。
私はこれまでまったく知らなかったのだけれど、宮島には鹿がいた。
それも、至るところに。
やや人が少ない海辺や広い道のそこここで、鹿は悠然と香箱を組んでいた。
そう、私は知らなかったけれど、鹿ってまるで猫のように香箱座りするのだ!
足けっこう長いのに、へこっと折りたたんで座れるのだ!
興奮して鹿の写真を撮っていたら、「鹿こわい!」とSちゃんがとき子さんの後ろにサッと隠れた。小さいころ鹿たちに襲われたことがあるという。
せんべいなどを持っていると一気に集まってくるの、とぐっと眉を寄せて鹿を睨みつけるSちゃん。
当の鹿たちは素知らぬ顔で、日光に目を細めている。
そんなわけで私たちはやや遠巻きに鹿を眺めながら、嚴島神社にお参りに行った。
お参りをするときにSちゃんが「お賽銭っていくら入れればいい?」ととき子さんに聞いた。
「神様にお願いする気持ちによって違うよ。大きいお願いをするときにはたくさんお金を入れるし、ご挨拶程度でよかったらちょこっとでもいいし」
「大きいって、一千万円とか?一億円とか?一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億……」
らんらんと目を輝かせて、いきなり歌うように位を唱えだすSちゃん。
出たー、ザ・小学生だ!
各々お賽銭を入れて神様へのご挨拶を済ませ、おみくじを引くことに。
あまりにも難解なお言葉に「ちょっと何言ってるかわかんない」とSちゃんがサンドウィッチマンの富澤さんのようなことを言う。
でもそう言いたくなるほど、おみくじの文面は難解だった。
「運勢は大吉じゃないのにめっちゃ褒められてるんだけど、なんで……?」
しかも、記されている項目はみんな微妙に異なっていた。
「とき子さんのにもSちゃんのおみくじにも“縁談”の欄があるのに、私のだけないんですけど……知りたかったのに」
戸惑いながら、工事中の大鳥居を眺めて山道に入る。
途中青空を旋回するトンビらしき鳥を見つけて、「あっ、鶫さんがいるよ!」ととき子さんが叫んだ。
鶫さん(正式クリエイター名、橘鶫さん)は私たちの大好きな長編小説『物語の欠片』の著者である。
「ほんとだ、鶫さんだ!」と言うと、少し遠い空からヒュンともう何羽かが加わった。
「えっ、鶫さんめっちゃきた!」
「これ猛禽じゃなくて普通の鴉とかだったら、ちょっと恥ずかしいですね」
本人のいないところで大はしゃぎしながら(鶫さんごめんなさい)、さらに歩みを進める。
当初の予定では、ロープウェイに乗って山の頂上まで登るつもりだった。
でも道中のシャッターの閉まったお店の多さに慄いて、そしてお腹も減ってしまったので、私たちはロープウェイの入り口で満足してしまった。
お昼にしようと、商店街に下りる。
「ここのお店がね、おいしいのよー」
そうとき子さんが指したお店には、休業中の張り紙が。
「たしかここのアナゴ丼もね、前来たことがあって……」
またしても「休業中」の文字。
飲食店はひっそりと静まり返り、賑やかなのはもみじ饅頭屋さんや雑貨屋さんばかり。
通りにはシャッターが目立っている一方で、宮島自体には国内外問わず観光客がわんさかいて。
開業している何店舗かの飲食店に、お客が殺到して大行列を作っていた。
「いま開業していた方が絶対に儲かるのに、もったいなーい」とブーブー言いながら歩いていたら、Sちゃんがふいに足を止めた。「リラックマだー♡」
なぜここにあるのかはわからないが、リラックマカフェである。
かわいい。そして他のいかにもな名物店よりも、お客さんは少なそう。
お店の外のリラックマの像と写真を撮ったりしているうちに、すぐに呼んでもらえた。
とき子さんと私は、リラックマがかたどられたアナゴ丼を頼んだ。
Sちゃんは牡蠣とアナゴの天ぷら御膳を注文。ご飯は私たちのアナゴ丼がリラックマの顔だけなのに対して、なんと全身。寝転ぶリラックマの頭の下に枕のように卵焼きが添えられているこまやかさである。
かわいさに悶えたのも束の間、アナゴ丼に箸を差し入れて耳から齧ると「顔壊れるの早っ」とSちゃんがケラケラ笑う。
当のSちゃんはリラックマの足からじわじわと食べ進んでいき、顔は最後の最後にちびちびと大切そうに食べていた。
食後に再び、景色を楽しみながら歩く。
とき子さんいわく「めっちゃ好き。座禅とか組みたい」、Sちゃんいわく「ただ広いだけでおもしろくない」、そんな好みが分かれる千畳閣こと豊国神社に入った。
「夏にくるとうんと涼しくて気持ちいいんよー」というとき子さんの言葉通りの風通しのよさに、思わず目を細める。
「ここは誰かすごい人が建ててた気がするんだけど、誰だっけかなぁ」
あいにくお互い日本史に疎いので誰によって建てられたのかわからないまま、ただただ日向ぼっこを堪能する。
そして、話は再び書籍の発送の大変さに及んだ。
本を作るまでもワタワタしたけれど、5~60件にもおよぶ発送作業もまた、相当に手間暇がかかるのだ。
せっかく本を買ってくださったのだから、感謝を込めて一筆添えたい。
希望者に書くサインも、スマートレターに書く住所やお名前も、絶対に間違えないようにしなくっちゃ。
包装ビニールのサイズは?何か付録をつけようか?noteのクリエイター名を書いてない人がいらっしゃるんだけど、いったいこのお方はどなたなの~~~???
等々、ありがたさと喜びに震える一方で緊張感とイレギュラーな事態に慄くこともままあって、それを分かち合えるのがすごく楽しくって。
無事に事前予約分の発送をやり終えたときの安堵たるや!と、経験者同士でねぎらい合った。
少し日が傾いできたので、商店街に戻ってもみじ饅頭を食べる。
広島といえばもみじ饅頭だ。
てっきり一つの会社がもみじ型を独占して広島名物を担っているものかと思っていたのだけれど、全然そんなことはないらしい。
粒あん、こしあん、クリームなどのスタンダードを売りにしているお店もあれば、チョコレート、イチゴ、チーズなどやや攻めているお店もあり、そしてあんこの入っていない塩バターもみじ、モンブランもみじ、焼き芋もみじといった限定品を扱っているお店もあった。
私たちはこの限定品のもみじを買って、路上のベンチで食べた。
もみじ饅頭の汎用性はすごい。
これまで和菓子として受け止めていたけれど、あのカステラ生地は洋風のクリームもとても合うのだ。
そして塩バターもみじを食べながら豊国神社の建造者をとき子さんがスマホで調べたら、まさかの豊臣秀吉であることが発覚。
ごりっごりの有名人じゃん!!!
誰か有名な人なんだけど、誰だっけ~?なんて軽いテンションでは語れない、日本史上のスタメンの突然の登場に、私たちはしばしざわめいた。
その後お土産屋さんを覗いてSちゃんが逡巡の末に鬼滅グッズを買ったり、愛らしい箸置きにとき子さんと私が目を奪われたりしているうちに、いい時間になったので広島に戻ることに。
ちょうどよすぎるタイミングでフェリーがやってきて、私たちは行き同様に全力で駆けこんだ。
行きも帰りも、待ち時間ゼロ分の宮島訪問だった。行きも帰りも大汗かいたけど、これはラッキーと言えましょう。
そして!いよいよとき子邸である。
念願のとき子邸
私にとっての「広島で見たかったものNO.1」であるエントランスには、噂の大家さんが置いてくれた野菜カゴが!!
これが……「太陽エネルギーをもつ大家さん物件に住んでいる」に書かれていた、大家さんからのお野菜!!!
喜び勇んで覗き込んだが、この日は大根の葉っぱが何枚かぽつりと残されていただけだった。
とはいえ現物のカゴを見られただけでも十分嬉しい。
「これが……!」と感動して、新聞紙の敷かれた空のカゴの写真を撮った。
意気揚々ととき子邸にお邪魔してお茶などをいただいていると、Sちゃんが自分の机に置いてあるすみっコぐらしのカプセルを見せてくれた。
「かわいいねぇ」と言ったら、「うん、300円だった」と言う。
300円だったんだ……。
にこにこと駆けだして、今度は押し入れから両手で大きなすみっコぐらしのぬいぐるみを出してきたSちゃん。
「これは4000円」
4000円だったんだ………。
「そんな値段のことばっかり話すんじゃないの!」と慌てるお父さんを尻目に、にやりと得意げな笑みを浮かべるSちゃん。
私の小学生時代よりもずっとずっとしっかりしている……!
この金銭感覚を携えて大人になったら、めちゃめちゃ堅実な未来が待っているんじゃなかろうか。
頼もしい、Sちゃん頼もしすぎるわ。
とき子さんがお風呂に入っているときに、旦那さんととき子さんのエッセイ集『なけなしのたね』の話になった。
「まだ読んではないけれど、どうせ俺の悪口書いてあるんやろう」
あはー…「チリンチリンの乱」は掲載されてましたねえ。
そう言うと、「酔っ払って自転車のベルをチリンチリン鳴らしたやつか」と苦笑い。
そう、まさにそれです……!
ついでに言えば「この出会いこそサプライズ」でも大いにバカウケさせていただきましたけれども……!
でもこうして「悪口書いてあるんやろう」と言いながら読まずに泰然としていられるところに、とき子さんへの圧倒的な信頼が窺える。
「いろいろ笑いに変えるのが上手な人でね」と目尻を下げて笑う姿に、しみじみと素敵なご夫婦だなぁと思った。
そして、お夕飯の豪華なこと!
旦那さんはおもてなしが好きだと事前にとき子さんから聞いていたけれど、本当にすごい品数のお料理を準備してくださっていて。
さらにSちゃんの手伝うこと手伝うこと。
サラダに始まり、人参やレンコンのきんぴら、お刺身に鰹の叩き、鶏手羽、そして山芋や人参、切り干し大根のぬか漬けと広島菜のお漬物!
焼いたり切ったり並べたりと大忙し。
あっ、ぬか漬けについてはこちらの記事も素敵ですよう。
ていうか私、米とみそ汁とぬか漬けさえあれば大満足なんですけどー!と恐縮しながら、おいしいご飯をたらふくいただく。
楽しくお酒をいただいていたら、Sちゃんがお父さんに釘を刺した。
「お父さん、飲みすぎたら日本旅行ゲーム10回ね」
「えっ、ほんとに?」と本気でたじろぐお父さん。
そんなに大変なゲームなのかしら。
そんなこんなで宴が緩やかに静まっていくなか、とき子さんと私は白湯を飲みながらこんこんと話していた。
リアルなお友だちの話や激推しのフラダンスの先生の話、会ってみたいnoterさん、「この方の漫画は深くて柔らかくてとにかくいいのよ」といった各々の推し紹介、書籍への掲載を最後まで迷ったエピソードや、企画立案や毎日投稿ができる人への畏怖(我々の身の丈を余裕で超えている気がする)、そしてもう一つの私たちの共通点、恋バナを真正面から書くことへの照れ。
とき子さんの「言の葉の箱」を読んで私も真面目に恋バナを書こう!と奮起して「代筆屋の恋」を書いたことや、鶫さんの『物語の欠片』のカリンとレンの関係性が適温なのよ!という話を鼻息荒く語り合った。
カリンとレンの、恋そのものには溺れることなく、お互いを思いながら周りも見られる空気感がとても好きなのだ。
そんなあらゆる話題できゃーきゃーはしゃいでいたら、いつの間にか午前3時を回っていた。
後編はこちらから!