試し読み『羽ばたく本棚』
この記事は「新刊を応援してくれてる人たちに内容をチラ見せして購買意欲を高めてもらいたいな~」という欲深い気持ちと、「文学フリマでチラシを受け取ってくれた人が覗いてくれたらいいな~」という図々しい希望を込めて書いたものです。
文フリでお会いできない方は、ぜひネットショップからご注文いただけたら嬉しいです。
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「私がこの本に出合ったのって、ひょっとして運命……?」
そう確信して、舞い上がってしまうような本がある。
「女の子なんだから、少しでもモテる努力はすべきでしょう」と二度目ましての男の子に言われたときの、『虫愛づる姫君』。
「神父になろうぜ!」と現実逃避して浮かれていた浪人時代に出合った、『レ・ミゼラブル』。
生理前で苛立ちが限界に達しているときの、『老人と海』。
一番必要としている瞬間に、スッとこちらへ羽ばたいてきた大切な本。
そんな思い入れのある本たちを、一冊ずつ本棚に入れなおすような感覚でまとめたのが、新刊『羽ばたく本棚』です。
これから、新刊に収録するエッセイを数行ずつ抜粋して紹介していきます。
本文はさておき(さておくな)、新刊の大きな見どころの一つはなんといっても扉絵!!!
第一章「羽ばたく本棚」を橘鶫さんに、第二章「ようこそ『フィンランドの昔話』へ!」をKaoRu IsjDhaさんにお願いしました。
お二人には扉絵と題字を担当していただいたのですが、それがもう、すごいんです。素敵にもほどがある。
今回扉絵を試し読みとともにお披露目しますので、ぜひお楽しみください。
せっかくカラーでお見せできるので、鶫さんのは題字なしバージョン。
【羽ばたく本棚】
【追記】
鶫さんの記事「瞳について語ろう3」もぜひ併せてお読みください。
親分を待ちながら(注文の多い料理店)*『How to ✕✕』収録
四半世紀も生きておきながら、私はいまだに化粧水と美容液の違いがよくわからない。
わからないままにグリセリン、エタノール、水添ポリイソブデンその他が渾然一体となった謎の液体やクリームを日々顔に塗り込んでいると時折、宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い出す。
ロブスターのために生きてるわけじゃない(虫愛づる姫君)
たぶん、相手にとっては「デート」だった。
けれど私にとっては途中まで、「サシでメシに行く」にすぎなかった。
いま振り返ってみれば、それが悲劇の始まりだったのだと思う。
ルサンチマンとヘクソカズラ(植物図鑑)
「るるっぺ、俺のこと嫌いやろう」
真顔で彼氏に問われて、バレたか、と内心舌を出した。
胸の奥底に隠していたつもりの思いをスパッと言い当てた彼の一言に、快感すら覚える。
「あの子がいれば」と言われたい(老人と海)
おそらく、いろいろなタイミングが合っていなかったのだと思う。
彼が少女漫画『ちゃお』のテーマソングにハマってしまったのも、私が生理前で身体が重く、めちゃくちゃに感情が揺れやすいのも、近づく台風を理由に彼の家に泊めてもらったのも。
それから私が、『老人と海』を読んだのも。
『おちゃとら』ウエディング(おちゃのじかんにきたとら)
「あの日のあなたは、ちょっとトラみたいだったよ」 結婚式が終わってから初めて実家に帰った夜、母はそう笑った。
「トラ」とは、『山月記』で「臆病な自尊心」を抱えるあまり虎になってしまった李徴のことではなく、酔って手が付けられない状態を指す「虎になる」という慣用句でもなく、ロングセラーの絵本『おちゃのじかんにきたとら』に登場するトラのことである。
蘇れ! 手紙魔ウェルテル(若きウェルテルの悩み)
初めから婚約者がいるって、叶わぬ恋ってわかってんだから、どこかで折り合いつけなさいよ。 未練がましいなぁ。
私はウェルテルに対して、そんな呆れ以上の感情を持てなかった。
誰も神父にならなかった(レ・ミゼラブル)*書き下ろし
「俺、神父になろっかな」
指にはめたとんがりコーンを齧りながら、友人が呟いた。
とても神父になりそうには見えなかった。とがった三角の爪はむしろ、悪魔の方がお似合いだ。
いきなりの進路変更の理由を問うと、とある名門私立大学の神学部がその大学の学部のなかで偏差値がやや低いことに気づいたのだという。
寝食とともにある物語(物語の欠片)*書き下ろし
九歳だったころのことを覚えているだろうか。
私は九歳のとき『ハリー・ポッターと賢者の石』に頭からのめり込み、「ご飯よ」「もう寝る時間よ」という親の声が煩わしくて仕方がなかった。
登下校の時間すら惜しくて、ページをめくりながら歩いて電柱に当たった。
再びミッチーになり損ねた夫(この宇宙にあなたは一人しかいない 及川光博名言集)*書き下ろし
トイレットペーパーの芯、ポッキーの箱、不要なチラシ、ティッシュの空き箱。 それらが無造作に、一枚の紙袋に押し込められていた。その紙袋は、私の、一番の、お気に入りの紙袋だった。
なんてことをしていやがる。怒りに震えながら、夫を呼ぶ。
辻野先生の課題図書(モンテ・クリスト伯)とき子*書き下ろし
辻野先生というのは、特別支援学級の先生で、年齢はもうすぐ定年ほどだっただろうか。 雰囲気は高田純次さんのような人で、いつもニコニコしているというよりは飄々としていた。 手先が器用で、絵が上手くて、話す言葉がユーモアに溢れていて、時々ニカッと笑う。
【ようこそ『フィンランドの昔話』へ!】
ばあさんズは棍棒を手に手に……(フィンランドの昔話)
「フィンランドの昔話」。そう聞くと、アニメ版ムーミンのような癒やし系をイメージする方も多いかもしれない。私自身も初めてこの本を大学の図書室で見かけたときには、ほっこり系の昔話だと信じ込んでいた。
ところがどっこい、この本にはハートウォーミングな物語はほとんど入っていない。
地獄へパシられる(フィンランドの昔話)
『フィンランドの昔話』には、まるでコンビニに行くようなノリで地獄に行く主人公たちがいる。たとえば、「島の三角形の家」。
一言で言えば、ジェラシーで地獄に行かされた少年が賢くパシられることで、ちゃっかり富を得て、うまいこと邪魔者を消す話である。
魔王に恐れられる弟、脱腸を投げる父(フィンランドの昔話)
「お爺さんや、私が死んでしまったらあんたは一人になる。でも、シニペウカロ家以外の人とは結婚しないで下さいよ」
それが彼女の遺言だった。とんだ遺言である。
ところがおじいさんはおばあさんの遺言を忠実に守って、あろうことか自分の娘と結婚しようとする。いやいや、そんな手近なところで済ませようとするんじゃないよ。
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本をめぐる座談会
(つる・るるる×橘鶫×とき子×KaoRu IsjDha)
以下、一部抜粋。
私たちの共通点、「恋愛モノに関する距離感」について。
KaoRu 恋愛小説は読まないけど、それ以外は何でも読む。恋愛要素が強い本はちょっと……。
とき子 わかるわかる、ちゃんと生活できてる?って心配になっちゃう。恋愛のことばかり考えて疲れないのかなと。自分の年齢的なものもあるのかもしれない。
鶫 わりとこの四人の恋愛モノに関する距離感が似てる気がします。
とき子 あんまり沼らない感じですよね。恋愛にどっぷりで周りが見えなくなる感じにはならない。この四人のドロドロの恋愛の記事は見たことがない。
『羽ばたく本棚』ご注文はこちら!
※表紙は前著、前々著に引き続き編屋さつきさんが担当してくれています。
判型:A6判並製
ページ数:168ページ
価格:1200円
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書籍版が完売した『春夏秋冬、ビール日和』はKindle版を販売中です。
夫と結婚するまでのエッセイ集『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』やKaoRuさんのポストカード、鶫さんのステッカーなどはSTORESのネットショップ「つるる書店」にて販売しています。
お読みいただきありがとうございました😆