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書評 ドストエフスキイ 「罪と罰」 イラストエッセイ 「読まずに死ねない本」 018 20240724

 ぼくの人生を二つの時期に分けるとすると、ドストエフスキイの「罪と罰」を読む以前と読んだ後ということになります。笑
 勉強ができず、運動も得意じゃなく、本を読んだこともなく、漫画ばかり見ていて、何事も長続きせず、何をするにもめんどくさく、努力が嫌いで、根気もない。褒められもせず、苦にもされず、まあ、のび太くんのような子供でした。
 そんなぼくが都立高校に進学したのですが、そこはいわゆる底辺校。時代で言えば「今日から俺は」の世界。いわゆるツッパリの全盛期です。気がついたらぼく自身は何も変わらなかったのに、優等生になっていました。周りが勉強しなさすぎたんですよね。笑
 勘違いというものは恐ろしいもので、「優等生」になったぼくは、高校一年生の夏休み、「優等生になったからには、本を読まねばならぬ」と、町の本屋さんに行って、一番分厚い本を買って読もうと決心したのでした。
 その本屋さんに並んでいる一番分厚い本が、ドストエフスキイの「罪と罰」でした。訳は米川正夫さん。
 それまで本は一冊も読んだことがなかったんですよ。漫画ばかり。でも手塚治虫先生の大ファンで、手塚漫画はほぼ全部読んでいたので、それが準備運動になっていたのかも知れません。手塚先生の漫画は「火の鳥」とか「きりひと讃歌」など、深い内容のものも多かったのしお
 それにしても辛かった。気が遠くなりました。分厚い新潮文庫の上下二巻でしたからね。それでも「勘違い力」とは恐ろしいもので、ひと夏かかって読み終わったんです。あの時の気持ちは今でも忘れません。
 感動したんです。ドパーミンがぶわーっと出ました。
 でもその感動のほとんどは、内容というよりも「こんな分厚い本が読めた自分」への感動でしたけれど。笑
 今の脳科学風に言えば、報酬系への刺激によってぼくは次から次へと本を読みだしました。ドストエフスキイは全作品。トルストイも「戦争と平和」「アンナカレーニナ」など。面白いことに分厚くて長い本であればあるほど、良いんですよね。そのように報酬系がセットされちゃったんだと思います。恐らくマラソンランナーと同じかな。何であんな長い距離をあれほど苦労してって思いますけど、一度ドパーミンが出ると生物はその行動へ駆り立てられてしまうんです。笑
 高校3年間で300冊の本を読みました。
 気がついたら、本当の優等生になっていた。笑 今でも確信していますけれど、読書をすると頭が良くなるんです。
 還暦を過ぎた今でも、息を吸うように本を読み、息を吐くように文章を書いています。

 「罪と罰」の話でした。笑
 自分を特別な人間と信じるラスコーリニコフという青年が、貧しくて勉強を続けられなくなる。強欲な金貸しばあさんから金を借りてやっと生活している。そこでふと思います。このばあさんを殺して金を手に入れ、その金で勉強を続け、偉大な人間になったとしたら、人類の益になるのではないか、その殺人は許されるのではないかと。そして実行します。
 一方、家族を支えるために売春婦に身を落としたソーニャという娘がいます。ラスコーリニコフはソーニャにひかれて行く。
 愛のない正義と、愛のある悪徳。この二つが葛藤します。

 高校時代に二度読み返し、その後の人生で三度読み返しました。
 素晴らしい作品です。日本文学にはこのような作品はありません。ほとんど、芸者に入れあげるダメ男の話ばかり。笑 もちろん、その良さもあるんですけどね。

 夏休みが始まりました。
 若者よ、スマホの電源を切って「罪と罰」を読みましょう! 笑

ドストエフスキイの肖像 オリジナルイラスト

下にアマゾンへのリンクを貼っておきます。
たくさんの翻訳がある中で、ぼくは米川正夫さんの訳が最高だと思っています。

 
 

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